第2話 初めての
「ん………洞窟?」
初期スポーン位置はどこかの洞窟か何かであるようだった。周りを岩石に囲まれている部屋のようになっていて、一本の通路が続いている。とりあえずその通路を進み始める。
「うっわ最悪wwww洞窟とかwwwww」
───声が聞こえた。それも背後から。恐ろしく軽薄そうな声とその内容からしてモンスターの類ではないと思うが、一応確認のために通路から自分が先ほどまでいた場所にひょっこりと顔を出す。
「うわぁ……」
チャラ男がいた。何がおかしいのかへらへらと笑いながら周りを見回している男を見ていると紋の大学にいた男を連想してしまうが……うっ、頭が……ッ!
「おお?」
「え?」
目が合った。
「おっと、女の子じゃーん。君も初心者?ちょっと一緒にいよーよ」
そう言って近づいてくる男。とっさのことに何と返答すればいいかわからず固まっていると、それを見てにやりと口の端を吊り上げた男が肩に手を回してくる。
「……ふむ」
男の一連の行動を見てどのように対処をするかを結論付けたアヤは、持っていたナイフで切りつけた。
「は、はあ!?何やってんのお前!?!?」
驚く男に向かい合い構える。そう、今の私は美少女アサシンなのだ(違う)であるならばPKをしても何らおかしくない。もちろん紋は現実世界でこれほど攻撃的なわけではない。だってほら、これゲームだしいいでしょ?の理論である(?)
「そっちがその気なら……やってやるよ」
構えを見て悟ったのか、ただの獲物だと思っていた女が自分に牙をむいてきたことに腹が立ったのか、男も剣を構えてアヤと相対する。
ところで、紋の家……纐纈家では子供に武術を習わせることにしている。紋は途中から嫌になったので自分と比べてやたらと出来のいい妹に擦り付けて父親の少しばかり厳しすぎる稽古から逃げたのだが、それでも先制攻撃の決まった素人に負けるほど弱くはない。故に紋の目の前の光景────ポリゴン片となって消えていく男の結末はある意味当たり前のものであった。このゲームではPKされた場合彼我のレベル差に応じて持っているアイテムをランダムに落とすはずなのだが、流石に初めてすぐにPKされても何も落とさないらしい。
『初めての禁忌:殺人 を達成しました』
『ユニークスキル:憤怒 を獲得しました』
「……ん?」
なんか称号とスキルもらった?タイミングと称号名からいくらか察してはいるが、確認のためにも説明欄を読む。
『初めての禁忌:殺人』
怒りに基づいた良心無き行い。その中でも殺人を初めて犯した者に送られる称号。
『憤怒』
使用後5分間STRとAGIが2倍になる。
「………ふむ。」
強くない?めっちゃ強くない?称号は置いておいて、このユニークスキル憤怒とかいうのがめちゃくちゃ強い。倍化でしょ?こんなもの序盤にもらっちゃっていいのかな?
いや待て、もしかしてこのゲームって割とステータスとかインフレする感じなのか………?おっと怖くなってきたぞ………まあいい。そんなものは他のプレイヤーに会えばわかる。とりあえずこの洞窟を進もう。
「きゃあっ!」
人の声が、悲鳴が聞こえた。それも前方から。
「……また?」
なんなんだこの人間とのエンカウント率は。洞窟にいるはずなのにモンスターよりも人間と会う方が多いなんて。
そんなことを考えつつもとりあえず悲鳴の方に進む。どちらにせよ進む道が1つしかないということもあるが、仮にも悲鳴が聞こえたのだから行かない選択肢はないだろう。そして進んだ先にはやはりというべきか少女がいた。そしてこちらも想定通り、その少女は襲われているようで、襲っている存在はというと。
「……ドラゴン?」
いやいやいや、落ち着くんだ。ここは仮にも初期スポーン地点のすぐ近くだぞ?
四足歩行で見るからに固そうな鱗を全身にまとい、角やら棘やらでかっこよくなっている巨大化した蜥蜴のような体躯をしている……うん…………これ、ドラゴンでは?それも終盤に出てきそうな感じの。
そんなドラゴンに少女が襲われていたのだ。彼女がプレイヤーなのかNPCなのかはわからないが、困っているのであれば助けようではないか。PKをした手ですぐに人助けに入る、この矛盾こそが人間なのさ………。
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