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こひる

第1話 起動

 2xxx年、人類は科学技術の進歩によって新たな次元に足を踏み入れようとしていた。インターネット技術はもちろん、移動手段の充実により21世紀初頭とは比べ物にならないほどに快適な生活を享受していた。


 もちろん、その恩恵は日常生活のみならず娯楽にも、もっと言えばゲーム界隈にも波及している。従来のディスプレイとコントローラーによるゲームから、体の五感すべてを電脳の中に取り込むフルダイブシステムを活用したVRゲームである。今や数万円で買えるようになったVRゴーグルを購入するだけでハイクオリティの完全没入型VRゲームが楽しめるのだ。


 ───ゴーグル型の機械で楽しめるのだが………私、纐纈紋はなぶさあやは目の前のVRマシンを見て少し後悔していた。


 「………でかくない?」


 本来ゴーグル型のもので十分楽しめるところをあえてその十倍以上の値段のするチェアー型のものを買ったのには理由があるのだ。嘘だ、理由などない。強いてあげるならば勢い、だろうか。今年から大学生になったこの女は友達作りに失敗し、コミュニティの形成に失敗し、悲しみのままにこのやたら値段の張るプロゲーマーなどが使うようなVRマシンを購入してしまったのだ。


 「ま、まあ。せっかく買ったし、さっそくプレイしようかな」


 紋の部屋の中の少なくないスペースを占領しているその機械に座り、起動するゲームは、コカサイト・オンライン。Ckoなんて略されているこのゲームは大手企業が技術の粋を集めて生み出した超大作。曰く、もう一つの現実。曰く、好きな自分になれる。そんなキャッチコピーとともに現れたこのゲームはゲーマー界隈を大いに沸かせ、凄まじい期待のもとに行われたβテストではやはり非常に好評であったらしい。そんなゲームの正式リリースが今日始まる。




 「新しい現実、ね。」


 ははは、私にちょうどいいではないか。大学なんてもう知らねぇ。この世界を楽しんでやろうじゃないか!!


 この時の紋はテンションが少しおかしかった。


 紋はこれでも様々なゲームのプレイ系経験がある。そしてそれらのゲームでアバターを作成するとき、自分の体形のコンプレックスからか基本的にスタイルの良いお姉さんのようなアバターにすることが多く、派手な戦闘を好む紋は魔法使い系のジョブを選ぶことが多いのだが。


 「……巨乳を皆殺しにすれば相対的に私も大きい判定になるのでは?」


 ロリっ子暗殺者を目指していた。なぜロリなのかは言うまでもない。そして、繰り返すがこの時の紋はテンションが少しおかしかった。



 「プレイヤーネームは『アヤ』で………種族?」


 Ckoでは人間、エルフ、ドワーフ、竜人、魔族の五種類から初期の種族を選び、それぞれに種族の特性がある。


 「ロリっ子暗殺者だからフィジカルが強いのがいいよね……となると竜人か魔族?あ、でも魔族は一部のNPCの好感度にマイナス補正がかかりますって書いてあるし、竜人でいっか。で、次はー、初期スキル?」


 Ckoでは初めに10のスキルポイントが与えられ、それを使い初期スキルを選ぶことで序盤の戦闘をスムーズにこなせるようになっている。


 「えーと、スラッシュが2ポイントでファイアが3ポイントで………パワースラッシュ5ポイント!?たかぁ………」


 自由度の高さを求めるためかやたらと数の多いスキルたちをスクロールして眺めていき、ひとまず最初のコンセプトに沿ったものを選ぶ。





 ──────



アヤ (♀)


種族:竜人

Lv,1

3000ゴルド

スキルポイント:2

ステータスポイント:0


HP:15

MP:5

STR:8

VIT:6

INT:5

DEX:4

AGI:8


スキル

・スラッシュ(Lv.1)

・隠密(Lv.1)


装備

武器:駆け出しのナイフ

頭:なし

胴:布の服

足:布のズボン

アクセサリー:なし



 ─────



 「まあ、こんなもんでしょ」


 これで一通りキャラクター関連のことが終了し、最後にスポーン位置を選ばされる。チュートリアルがある始まりの町か、適当な「モンスターがポップする場所」のどこかにスポーンをするかを選べるらしい。後者はおそらく何かの縛りプレイをする際や、自身のプレイヤースキルに自信のある場合に使用するのだと思うのだが、アヤは迷いなく後者を選んだ。


 三度繰り返す。この時の紋はテンションが以下略

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