14:アオイちゃんは追放される

 樹里は魔王の俺に匹敵する存在、しかも元「女神」かつ異世界転移者という満貫だ。

 人間の国として五百年の歴史があるザワート大公国に、そんな属性モリモリの女を置いておくことはできない。

 そこで俺が下した決断が、樹里の追放だ。


「へ、陛下までどうして!」

「どうかお考えなおしください!」

「私たちを見捨てられるのですか!?」


 もちろん追放されるのは樹里だけじゃない。俺も一緒だ。

 「女神」の消失は、いずれ明るみに出る。その時に、対立していた魔王だけ残っていたらどうなるのか。

 きっとこの世界は無駄に俺を求め、俺に怯えるだろう。


「何か勘違いしているようだけど、アオイはお前たちを見捨てたりはしないよ? ボクが正妻なのは譲らないけどね」

「ま、まぁ何だ。そういうことだ」


 レンたち三人とこのままバイバイするのは、極悪非道の魔王らしい所業かも知れない。現に五百年前までは、女は全員ヤリ捨てだったのだ。

 しかし、向こうの世界から戻ってからの自分は、そういう魔王ムーブに嫌悪感しか抱かなくなっている。

 もしかしたら、それも例の、アパートを取り込んだ影響なのだろうか。


「いつでもお待ちしております、陛下」

「今まで通り寝所を襲えばいいよ。ボクも一緒だけどね」

「勝手に話をすすめるなよ」


 まぁ俺も樹里も転移魔法を使えるし、レンたちもある程度の距離なら可能。遠距離恋愛にすらならない。


「少しだけボクと話し合おうか」

「………」


 納得していない三人を連れて、樹里は奥の空き部屋に消えた。

 猛烈に嫌な予感しかない。

 三人は気づいてないが、今の声は邪悪モード。向こうの世界でさんざん酷い目に遭った時の声だ。


 ま、命のやり取りにはならないから問題ないか。

 仲良くなってほしいし。


 そもそも、俺はレン、ハルキ、リオのことも普通に好きだからな。

 最初はともかく、その後に三人と逢瀬を重ねて、しっかり情が移っている。

 同時に四人を愛するなんて、貧乏大学生のメンタルではあり得ないから、その辺はしっかり魔王なんだろう。




「爺の死に目は看取ってくだされ、魔王様」

「殺しても死なないだろ。心配しなくても、もしもの時はとどめを刺してやる」

「はははは、ありがたい仰せ」


 そんなわけで、大公以下ザワート大公国の面々に別れの挨拶。

 樹里とレンたち三人の話し合いは、いろいろあったが無事に済んだ。

 いつの間にか三人が樹里を「お姉様」と呼ぶようになったが、詳しい事情は聞かないことにする。


「陛下。今後とも是非ご指導くださいませ」

「おう。お前たちが攻められた時はいつでも呼べ」

「勿体ないお言葉です」


 大公国には今まで通りに顧問のコバンを残す。とはいっても爺は戦えないが、防衛だけならレンたちがいるから問題はない。

 レンたち三重臣には、俺のアレをたっぷり注ぎ込んだ。

 ぶっちゃけ、例の三バカ程度なら一人で相手できるはず。それ以上強くなりすぎると逆にまずいぐらいだ。


「キスカス殿らも、信用はできませんがすぐには裏切らないでしょう」

「大公。君がそれでいいならまぁ…、三バカが何かしたら伝えろよ」

「ははっ、魔王様、何卒お力をお貸しください」


 キスカスというのは、その三バカのリーダー格、鎧兜の男だ。

 三バカはザワート国内に攻め込んで多大な損害を与えた。停戦後、教会の斡旋で一応は謝罪したが、さすがにザワートへの入国は禁じられている。

 一方で俺に蒸発させられ、生き返った後の三バカは完全に俺の支配下にある。別に無理矢理従わせたわけではないが、力の差を思い知ったのか、蘇生する際に何かあったのかは不明。


 同じく蘇生させてやった五ヶ国連合軍の連中も、俺を敵視できなくなったという噂があるんだよな。

 確かに、逆らえないようにしてやる…と言ったが、あれはただの口から出任せだ。そもそも、吹けば飛ぶような人間をいちいち洗脳する価値はないわけで、ほとぼりが冷めれば元に戻るだろう。




 こうして、俺と樹里は追放された。

 ザワート大公国と、タチマ王国など五ヶ国連合に加わった国々への立入を禁ずるという、傍目にはまあまあ重い処分だ。


「お姉様、へ、陛下をよろしくお願いします!」

「ふふっ、心配ないわよリオ。…貴方のことも可愛がってあげるわ」


 樹里とリオは抱き合って、二人の二つの大きなあれがぐりんぐりん揺れる。

 ただでさえ、この世界の女性の平均を大きく上回る長身同士。追放…の場にふさわしくないどころか、どんな公の場でもやめてほしいやり取り。

 もっとも、アオハの北の城門に集まっているのは俺と樹里、レンたち三人、コバンだけだ。

 コバンの爺には別に見せたくもないが、爺はかつての俺がヤリたい放題だったのを散々目撃しているから、ただニヤニヤしているだけだ。


「ハルキもおいで」

「は、はい! お姉様、その…」

「ふふ。また…たっぷり、してあげる」


 ハルキは抱きしめられて真っ赤に。側では順番待ちのレンもうずうずしている。

 マジで俺は何を見せられてるんだ。

 というか樹里って未経験者だろ? あれ? 男はないってだけなのか? 深く考えたくないな…。



 改めて見ても、三人は全員がデカい。

 コバンは家柄などの条件下で、能力が高くて俺が気に入りそうな女を抜擢して育てたという。非常に不本意だが、コバンの見立ては優秀だ。ダテに俺の爺をやってない。

 そう。

 俺が好む女の条件は山ほどあるが、単純に背が高い奴を気に入る傾向はあったと思う。ヤリ捨てするだけで、特定の女を大切にした記憶はない。だから背が高い、胸がデカいとか、身体的特徴で選んでいた。


 で。


 向こうの世界の単位で説明すれば、レンが175cm、ハルキは172cm、そしてリオは180cm近い長身でがっしりした体格。

 ただし、そんな三人を抱きしめる樹里はもっとデカい。185cmぐらいある。

 両性具有の今の自分は172cmで、ハルキと並んで最下位。この世界の女の平均は150cmぐらいだから、俺だって長身巨乳美脚なんだけど。

 ああ、美脚とか自分で言ってしまうと悪寒が。



 まぁ…、俺の背が縮んだのは今が初めてじゃない。

 向こうの世界に転移した直後も、なぜか背が縮んだのだ。



 五百年前の魔王オーリンは、2m以上の巨体で、その見た目で周囲を威圧していた。

 その魔王の力を封じて向こうに行ったから、力が抜けて小さくなったのかも知れないし、そもそも無理矢理侵入した異物なので、大きく負荷がかかって縮んだ可能性もある。

 そこで出会ったシリは…、最初からデカかったな。

 向こうの世界でも、力が強い者、尊い者は大きいと聞かされた。最初に会った時のシリは3mの巨女で、正直言えば魔物にしか見えなかったのだ。


 生まれ変わるたびに小さくなって、最後の樹里は170前後。

 そのままで良かったのに、なぜまた巨大化したのやら。

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