13:アオイちゃんは追放する
タチマ王国の聖堂で起こった大事件は、とりあえず秘匿されることになった。
教会が信仰する「女神」が、魔王アオイを追って来た謎の女に身体を奪われて消滅した。それが明るみに出れば、「女神」を信仰する教団は崩壊する。
そして、その教団を国教と定めている諸国にも甚大なダメージを与えることになる。
もっとも、既にタチマ王国は信仰を捨てると宣言したし、五ヶ国連合に参加した他の国も同様らしい。
教団の今後は、俺には想像もつかないな。
別にこの世界で信仰される神はアレだけじゃない。それに、教団の教義そのものは「女神」とたいして関わらないという。
まぁ、あの「女神」の託宣を絶対視したら、若い男を生贄にしろとかヤバい方向になるだろう。むしろ、いなくなって良かったのでは。
「なんでボクはこんなメガネ掛けてるのかな?」
「仕方ないだろ」
今後のことを考えるにも、そもそも俺たちがうろうろしている時点で問題がある。
タチマ王国にいても埒があかないので、樹里を連れてザワート大公国に戻り、とりあえず彼女も塔に住まわすことにした。
しかし、教会云々とは別に大問題がある。
「変装してコソコソするのが、アオイにとってのデート、なのかい?」
「メガネとかつら。一応これもペアルックだと思え」
「却って目立ってるよね? というかかつらじゃなくてウイッグだよね?」
「いいんだよ、細かいこたぁ」
俺と樹里は、「おつき合い」することになった。
五百年前から、確かに俺たちの間にはそういう感情があったのだろう。ついこの間まで、教室で隣り合って講義を聞いて、コンビニバイトの邪魔をされていた時間も、確かに互いの好意を感じ合っていた。
その彼女がやって来て、「女神」は消えた。
状況を整理してみれば、何もかも理想の展開だった。
「陛下と手をつなぐなんて許せません」
「さ、昨夜は私を抱いてくださったのに」
「なぜ公務なの?」
残念ながら、俺たちのデートは監視つき。レン、ハルキ、リオの三人が、これも覆面姿で後ろをつけている。
まだ俺は樹里を抱いていない。代わりに昨夜も三人を相手に頑張った。
正直、この関係をどうすればいいのか分からないまま、どうにか全員とまるくおさまる手段を考えている。
おかしな話だ。
五百年前の俺は、見境なく女を抱いていた。相手のことなど何も考えなかった…のに、今の自分にはそういう衝動がない。
「なあ妹よ。改めて聞くが、なぜ俺はこんな身体になってしまったんだ?」
「アオイ姉ちゃん……って、冗談きついわ」
「我慢しろ、い、い、……」
「アオイも笑ってるし。だいたい、ボクが姉の方が良かったよね?」
「お前が後から来たんだから、そこは譲れないぞ」
絶対に似合ってない紫色のかつらを被って、今の自分を悪名高い魔王と見破る奴はいないだろう。
ただし、どんな変装しようが、でっかい胸が隠せないので男には見えない。
なので樹里とは姉妹という設定で歩いている。
俺より樹里の方が背が高いので、傍目にどっちが姉に見えるかは考えたくない。
兄や弟には…、見えないだろうな。
後ろをつけている三人も、隣に立つ樹里も、俺を男としか見ていないけど、じゃあこの身体はなんなんだ、と思う。
「一つ言えるのは、ボクが犯人じゃない」
「だろうな」
「だけど、思い当たることはある…、うーん、ボクより大きい?」
「がっ、やめろバカ!」
真面目な話の最中にいきなり背後を取る女。
そして思いっきり胸を掴まれる。
ヤバい。悪寒が。
「アオイが消えたのは、アパートの部屋で昼寝していた時」
「いきなり話を戻すのか。………俺の記憶でも、そうだと思う」
「それは推測じゃなく事実。なぜなら…、こうしたらどうかな?」
「ぐっ、……目立つだろ!」
「もう目立ってるから大丈夫だよ。アオイは紫髪の変態巨乳美脚美少女だから」
「しょ…」
油断した瞬間にまた揉まれてしまう。しかも今度は…、先端をピンポイントで攻められて、一瞬記憶が飛びかけた。
慣れてないんだよ! 頼むから、真面目な話は最後まで聞かせてくれ。
「消えたのはアオイだけじゃない」
「はぁ?」
「アパートのアオイの住んでる部屋、丸ごとなくなった」
「……マジかよ」
さすがに予想外すぎる情報だった。
アオハの繁華街。
自分たちが異様に目立っていることに気づいたので、後ろをつけている三人を呼び止めて、個室のある店に逃げ込んだ。
なお、俺たちの痴態を目撃していた三人は非常に不機嫌だったが、正直言ってそれどころではない。
「知らなかったということは、こっちにアパートは来なかった?」
「来たらびっくりだろ」
話題が話題なので、監視役も入れて五人で食事となった。
なお、個室があるから高級レストランというわけでもなく、アオハの田舎料理の店らしい。
個室自体も薄い壁で囲われただけで、そのままでは密談なんて無理だが、俺が結界で覆ったので問題ない。
「そう。来なかったとしたら、どこに消えたの?」
「分かるわけない……って、まさか」
「一緒に来たアパートは、アオイに取り込まれた。その時、部屋の中にいた生物も取り込んで、その性別に引っ張られた。どう? 完璧な推理でしょ?」
「……………」
レンたちの唖然とした表情で、樹里の推理が如何に荒唐無稽なものかを知った。
だが、樹里の根拠のない自信は、俺には理解できた。
なぜなら、今の自分はいろいろ余計なものがついているからだ。まぁ、全部女要素だけど。
「つまりお前の推理通りなら、取り込んだ部分を外に出せば女も消えるってことか?」
「それは無理だよ。だってアオイは、自分の身体のどこまでがアパートなのか分からないでしょ?」
「頑張って、分かるようになるさ」
「ダメだよ。ほら」
「ぐぁ、な、何しやがる!」
また胸を揉み始めた樹里。
ただし今度は背後に回られたわけじゃなく、それどころか彼女は一歩も動いていない。
念力なのかそれとも遠隔接触なのか、ただ彼女がいやらしく両手を動かすだけで、俺の胸のふくらみに手形がつき、激しく揺さぶられる。
「どう? 気持ちいいでしょ?」
「貴様! 陛下に何をする!」
「うるさいなぁ。じゃあ君たちにも特別だよ?」
「ひぁっ!?」
「や…やめ……」
「これで大人しくなるよね」
「い、いやぁっ!!」
抗議した三人も、次の瞬間には同じ目に遭ってしまう。というか、でっかい叫び声をあげて果ててしまった。
樹里は右手の人差し指と中指を立てて動かしている。どうやら…、●●●も攻めたようだ。
「アオイもやってほしい?」
「やったらお前との関係は切る」
「えー」
自分のアレを持て余しているが、別に使わなきゃならない理由もない。両性具有になってしまっても、俺はあくまで男のつもりだからな。
それにしても、同時に三人をグリグリして果てさせるとは、今さらながら恐ろしい力だ。あ、遠隔で同時にした俺が言うのはおかしいか。
「で? 樹里は何をしたいんだ?」
「ボクはアオイにこのままでいてほしい」
「悪戯するためか」
「そこは愛情の確認と言ってほしいな。今のアオイはとてもきれいで、なのにちゃんとボクが待ち続けたアオイなんだ。ボクがずっと抱かれたいと願っていたアオイなんだ」
「………そ、そうか」
急にまっすぐ見つめられて、言葉に詰まる。
黙っていれば絶世の美女。そして、口を開いても俺の好み、ドストライク。だって仕方ないだろう?
五百年間の腐れ縁なのに、一緒にいて楽しい奴なんだ。
結局、こうするしかなかったのだ。
「樹里。お前は追放だ」
「うん。分かった」
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