15:アオイちゃんはペアルックで逃亡先を探す
「あの…陛下。……どちらへ向かわれるのでしょうか?」
形式的なものではあるが、俺と樹里はザワート大公国から追放される。
形式的なものではあるが、都アオハの城門で、三人の重臣によって追放の儀式が行われている。
「レン。追放する側がそれを聞くのは、追っ手を遣わして始末する時だぞ」
「え? え?」
「冗談だ。とりあえず海を渡るさ。後は成り行き次第だな。樹里もそれでいいだろ?」
「アオイは何も考えてないよ。いつだって適当だもん」
自分が本気で追放する側なら、絶対に生かしておくことはない。
お前をパーティーから…みたいななんちゃって追放はともかく、国家が追放するのは体制を揺るがす者だ。
本気だったら、適当に理由をでっち上げてでも処刑するだろうな。
今回は形式的といっても、国家による追放だから、今後俺たちが襲撃される可能性はある。
で。
襲撃したい奴がいるなら、いつでも来いと思う自分がいる。
一応、これでも魔王だからな。
「では…、お、お前たち二人は今後ザワート大公国への出入りを禁ずる! ただちに国外へ立ち去れ!」
「了解だよー」
「あの、お、お元気で」
せっかくレンが格好良く決めたのに、樹里の返事で台無しだ。
まぁ、関係者以外誰も見てないからどうでもいいけど。
俺と樹里が手を組むという世界の危機。
どこにいてもきっと平穏無事にはいかないから、せめて二人の正体を知らない国で暮らすのだ。
城門で四人に見送られた俺たちは、そのままアオハ郊外の港町ナカセまでは徒歩で移動した。
アオハに立派な港があるけど、いろいろ目立つので余所に向かう。
今の二人はお揃いの衣装。向こうの世界の大学キャンパスで見慣れた白いシャツと紺色デニムスカート、薄手のカーディガンを羽織っている。
ああ、もちろん俺も、だ。
「それにしてもヤッバイよねー。アオイが女装しちゃって」
「女装って言うな」
「女装だよ? だって、アオイって自分が女だと思ってる?」
「…思ってない」
完全両性具有の身体は、股間を隠せば女性にしか見えない。どういうわけか、ヒゲはなくなったし声も高くなったから、聖剣以外はすべて女の要素だけ。
なので仕方なく女性の格好をする。もう一ヵ月にもなれば、ブラジャー着用にもある程度は慣れたが、相変わらず納得はいかないままだ。
「ボクより大きいなんて、酷くない?」
「揉むなバカ、街中だぞ!」
「アオイが我慢すればいいだけだよ。それとも、ボクを揉んでみる? できるよね?」
「できたってやるか……って、だから指先でグリグリするな!」
「あーあー聞こえなーい」
ナカセは漁港があるだけの小さな町だ。
その一本しかないメインストリートで、カーディガンの盛り上がった部分が歪んで勝手に動くという異様な様子を見せつけてしまう。
そりゃまあ、自分にだってできるだろう。俺は遠隔●●の前科者。五百年前も、能力を使って同時に愛撫するぐらいは普通だった。
むしろ、手を出さない今の自分がおかしい? 相手が樹里なんだから仕方ないのだ。たぶん。
「心配ないって。ボクたちは最初から目立ってるし」
「この格好じゃ注目されるからダメだって何度も言ったよな?」
「ボクたちは追放されたんだよ? どんなに人目についたって、もう彼らと出会うことはないんだ」
「まぁ……、それはそうだが」
痴態をさらすまでもなく、絶世の美女二人が「普通」の大学生ファッションという時点で目立たないわけはない。
目立ちすぎて襲われそうだ。
たぶん樹里は、襲われたら面白そうとか思ってるのだ。
その後。
ナカセの港に行ってみたが、客を乗せるような船便はなし。
そもそもこの世界、特別な用もないのに外国旅行など許可されない。そして、追放された二人に許可など下りるはずもない。
残念ながら優雅に船旅は無理っぽかった。
「どうする? 転移を使えば済むだろうが」
「アオイはボクたちの新婚旅行を何だと思ってるんだい?」
いや、だから名目上は追放なんだけど。
もっとも、仲良く手をつなぐ二人にとっては、樹里の言い分が正しい。
「いいこと思いついたよ、アオイ」
「絶対にろくなことじゃないよな?」
なんだかんだと息ぴったりな俺たちは、こっそり隣のタチマ王国に転移。
そして身分証を偽造した。
「ザワート大公国の許可を得て、モガーミ公国に買い付けに参る者でございます」
「ふむ…、コンビニ商会か、聞かない名前だが身分証は確かなようだ」
向こうの世界だったら噴飯物の名前だけど、ここでは俺たち二人しか意味を知らないからちょうどいい。
姉妹で昨年独立したばかりという適当なストーリーをでっち上げて、二人は堂々と交易船に乗り込んだ。
「魔王だけあって嘘つくの上手なんだね」
「お前だって、さすがだ。あの羽虫を乗っ取っただけのことはある」
船旅の予定は三日。
対岸の大陸の港町アーラまで、小汚い大部屋で寝泊まりの新婚旅行。
プライベートな空間もないのでお預けだと言ったら、樹里はものすごく拗ねてしまったけれど。
「まぁいいよ。五百年に比べたら一瞬だし。その代わり陸に上がったら覚悟してね。ボクは、ボクより先にあの三人を抱いたこと、まだちょっと恨んでるんだ」
「そ、それは仕方ないだろ? 慈悲は不可抗力だし、お前が来るなんて…」
「来るに決まってるんだよ? ボクを甘く見たこと、思い知らせてあげるから」
「………お手柔らかに頼む」
波止場を離れていく様子を並んで眺めながら、魔王のくせに情けない台詞を吐く俺だった。
※なおノクターンでは既に第1章完結扱いになっています。こちらでもさっさと掲載するつもりですが、18禁全開の箇所は微修正不可能なので全カットになる予定。
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