10:アオイちゃんは男(女)でござる

※18禁部分を取り去ったので、ダイジェストみたいになっています。無修正はノクターンで。




 五百年ぶりに戻って来た世界。

 俺が暮らしていた塔は、ザワート大公国という国の王宮の一部になっていた。


 五百年前、ここはオーリン魔王国と名乗っていたと思う。

 思う…というのは、俺自身は名前だけの王で、モクたち臣下に任せていた。国名も、どこが都だったのかすら忘れてしまった。

 まぁ、戻って来たのがここだから、アオハだったんだろう。当時の名前は……、オーリンだな。適当過ぎるだろ、俺。


「あ……びくっと…」


 そんなわけで、戻ってきたら自分の国はなくなっていた。

 ここの大公はモクの子孫だし、大公としか名乗らなかったのは、初代が俺を王として扱い続けたためらしい。

 なので、国名を改めて俺が王を名乗っても問題ない…というか名乗って欲しいと懇願されたが、そこは丁重にお断りした。


「このまま…」

「お前たちをどう扱ったらいいんだろうな。レン」

「へ…陛下の思し召しのままに…」

「ふむ」


 とりあえず一時的な処置として、俺は五百年前に使っていた塔の最上階に住み、ザワート大公国の名誉顧問として処遇されることになった。

 コバンが顧問なので、その主人は名誉とつけただけ。内々での就任なので基本的に俺の存在は隠され、特に仕事もない。

 なので大公には、俺の意向なんて気にするなと命じてある。

 五百年間も俺なしでまわっていた世界に、今さら君臨しても仕方ないだろう。


「レンは俺を何だと思っている? 男か? 女か?」

「あの………」


 で。

 名誉職の俺だが、ある意味ではやはり大公国を陰から操る形になる。

 五百年ぶりに使用再開したベッドで、女性モノのワンピースを着せられてしまった俺はなぜかメイド姿のレンと。

 着衣のままだから、傍目には女性同士のスキンシップととれなくもない。


 まさかレンに止めろとも言えないし。


 まぁいい。とりあえず、自分の「女」は我慢するだけ。ぶるんぶるん揺れる胸も、今は感覚を遮断してごまかしている。

 着衣のままなのも、自分の裸を見て興奮したくなかったからだ。

 ただ、それはそれで女装した気分になってしまい、正解だったのかは怪しい。

 いや。


「お前は女で」

「………はぁ、はぁ…?」


 そうだ。

 ほしいと思った女はすべて抱いた。魔王だからな!


「俺は男…だよなぁ」



 あの日に「慈悲」を与えたレン、ハルキ、リオの三人は、俺の身の回りの世話をすると称して代わる代わるベッドに潜り込んで来る。

 ちょっといろいろ支障はあるが、気絶するまで優しく介抱してやっている。


 そう、俺は男だ。

 そしてレンたちも、俺に男を求めている。


 しかし、だとすれば俺は三人をただのセフレとして扱うことはできない。何しろ、メイド服で俺に刺さりに来る女たちは、大公国の大重臣なのだ。

 左右の大臣と大将軍を抱いた男。となれば、俺は三人を妻にするしかないが、国の中枢を丸ごと我がものとして、名誉顧問で済むはずがない。


「………陛下とは、お…同じ女として親しくしていただいています」

「結局、それしかないか」


 「慈悲」で強化されたレンは、すぐに意識を取り戻す。

 そして、下心しかない建前を堂々と口にした。


 女だと自称すれば、俺は女にもなれる。


 何しろ今の自分は完全型。

 妊娠させられるし、たぶん妊娠できる。


 この身体については、いくら考えてもわけが分からないまま。

 五百年前の俺も、向こうの世界で生きた自分も、一瞬たりとして女だったことはない。

 強いて考えるなら―――――、一人の顔が思い浮かぶ。いや、思い出そうとしても、記憶に靄がかかっている…というか、靄をかけたくなっているだけだな。


 あいつに、そこまでの力があるだろうか。

 というか、仮に犯人があいつだとして、俺に女性要素を足して何のメリットが?



 こうして、俺は「女友だち」と仲良く遊んだ。

 波風立てずに済ます方法が他にないからな。


 向こうの世界では同性の結婚もありになりつつあったが、この世界での男女、しかも王侯貴族の男女にとって、結婚は家や一族の問題だ。

 そして、結婚は子孫を残すのが前提になる。


「もっと強くなって、陛下のお役に立ちたいです」

「悪いが、それはなしだ、レン。人間を捨てることになるぞ」

「そ……そうですか……残念です」


 五百年前までの俺はデタラメな魔王だった。

 献上された女性を抱くのは、王としての務め。ただし、下手に子どもができると問題なので、魔法で避妊していた。

 科学的知識がなかったので、無理矢理…というか原理不明だった。たぶん精子を殺したんじゃないかと思う。



 そんな感じで、適当に三人を抱いているだけの日々が続……くわけはなく。

 というか、俺が嫌だ。

 五百年かけて俺が修行した目的、「女神」を倒さなければならない。レンたちとのピロートークを兼ねて、情報収集に努めることとした。

 三人との逢瀬に理由をつけたかった、というのも嘘じゃないけど。



 だが。


 修行した目的は果たされることがなかった。

 五百年の因縁を、俺は甘く見ていたのかも知れない。

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