歩み寄る時間を
「なぁ、私も歌ってやるったらお前設備整えてくれんの?」
とある放課後、担任に彩色が呼ばれ、スマホ――もとい都々を置いていった教室で軽くギターを弾いていると、いつも通りの合成音声で都々が急にそんなことを言った。
「……言ってる事の意味がよくわからんが、文化祭で俺と彩色が作った歌を歌いたいって意味であってるか?それ」
「あってるあってる。この歌姫である私がお前と歌ったら百人力だぜ?」
ふふんと胸を張り提案してくる意味がよく分からないが、俺と一緒に歌う価値があるのだというニュアンスで話をしてくる。いくら自立式のAIとはいえこんなことも提案してくれるのかと関心を覚える。
確かに、俺はもう演奏できるくらいには仕上がってきているし、歌も都々が最初から指導してくれているから何とかなる。それに、都々はこんな生意気な性格をしてはいるが機械だから、彩色が打ち込み作業をして、都々がそれを学習すれば歌えないことは無いだろう。ただ、
「その前提条件である設備を整えるが、残念だが俺にはできねぇよ。」
そう、そこが根本的な問題だった。都々は機械だから出し物の人数が増えたから再申請、という作業はしなくていい。設備も物があるのなら人脈でごり押せば行けなくもないか、?という話ではあるが、そもそも物が無い。都々も彩色の持ち物であって、舞台にでかでかと表示できるような物を持っているなんて話は出たことがない。
「あ?雪奈に言えばいいだろ。私という歌姫がいないと学校のでっかい舞台でなんて、緊張で歌えねぇから設備貸してくださいって。」
「お前なんでそんな調子乗ってんの??俺一人でも出来はするだろ。てか、は?彩色は設備持ってんの?見たことも聞いたこともないが」
「お前の言う彩色は持ってないんじゃね?でも、雪奈にさえ言えば設備に必要な物を一日引っ張って来ることぐらいはできるだろ」
何処吹く風で彩色の名前を出し、それで全部解決だろ?はい終わり〜と、ホログラム上でどこから出したのか学校の椅子に座りぱたぱたと足を揺らしているのを聞き流すことも出来ず、さすがに持っていたギターを横に置き、彩色のスマホへと向き直る。
「……?何言ってんだお前。俺が言う彩色以外の彩色って、そもそもあいつの両親にあったことも無いんだが」
「あの毒父親じゃねぇよばーか。お前頭湧いてるのか?雪奈も相当だけど音楽バカすぎて周り見えてないのか?これだから猪突猛進タイプは……」
「ボロクソすぎるだろ。あいつの両親のこともきにはなるが、結局お前は何が言いたい?」
「……へ?あ、言ってなかったか?」
きょとんと首を傾げる都々を訝しみつつ手に持っていたスマホを机に置き、話の続きを促す。
「私――AI型 Diva式 絡繰人形,五風十雨都々の製造元、color industrialは、彩色雪奈の叔父が経営してる会社だぜ?」
「はぁ!?」
俺の驚いた声は裏返り、突然立ち上がったことで後ろに転がった椅子が大きな音をたて……爆弾のような発言をした機械の歌姫が、いたずらを成功させた子供のようににんまりと笑っていた。
――――
「"都々の、ホログラムを拡大してステージに流したりスピーカーに高音質で流す機器くらいなら、叔父にお願いすれば出してくれると思いますよ?無償かどうかは分からないですけど、中古で購入するより格安で済むとは思います。"」
さすがに都々がマスターのことが好きすぎて妄言を吐いている可能性を否定できなかったこともあり、職員室から帰ってきた彩色に聞くと、にっこりとした微笑みと共に、スマホの液晶に表示させた文でそう伝えられる。
「まじかよ……」
「この状況で私が嘘つく意味なくね?」
「いや、お前の性格ならやりそうで」
はぁ!?とホログラムから飛び出てきそうな勢いで怒り始めた都々を軽くあしらいつつ、担任に呼ばれた原因を彩色に促せば、文化祭中教室で流す曲の話だったらしく、それも軽く世間話程度に済ませつつ都々の機嫌が直った辺りで本題にもどす。
「彩色的にはどうなんだ?都々と俺が歌うのは」
そういうと、少し葛藤した表情を見せつつ時間をかけてまたスマホに文字を、打っていく。声を出すことが出来ない彩色からは声色を伺うことは出来ないが、文を打つ間やその時の表情で何となく何を思っているかは伝わるようになってきていた。普通に話すより長くなる停滞の時間も、他の人となら面倒くさく感じるのかもしれないが、彩色の人柄もあり俺の気持ちを組んでいつも言葉を選んでくれているのだと思えば、面倒どころか愛おしいなと感じるようになっていた。
「"設備と言うより、技術的な問題が浮上して来ますけど、それは響也さんの問題と言うよりは私側の調教や打ち込みの方なので、現実的ではあるでしょうし、二人がやりたいというのならサポートしますよ?"」
そうして打ち出され表示された文とは裏腹に、酷く寂しそうな表情の彩色が気になって、でも、彩色が自分の音楽に自信をもって、愛を持って作り続けていることは知っているから、嫌なら本気で嫌だと言うだろうと、どこか短絡的に思い、俺は口を開く。
「なら、お願いしようかな。よろしく頼む、彩色。」
「"もちろん。ならサビの部分を少し調整して――"」
すぐに寂しそうな雰囲気は消え、都々と歌うために調整を施されていく曲と真剣に向き合っていく彩色を見つつ、ふと窓の外に拡がった茜色に染まった空を見て思う。
俺は、この少女にちゃんと歩み寄れているのだろうか?
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