第21話 殿下も一緒にこの時を
アラン様は私に唇を重ねたまま私の腕を固定し動こうとしない。抵抗しようにも、いくら華奢な身体であっても騎士科なだけあって、ピクリとも動かせなかった。
「アラン様……どうして……」
聞こえるエミリアの残念そうな声。
更に周りの人々が一気に注目し、ざわつき始める。
その瞬間だった。
「貴様、俺のディアナに何をする……!」
そうアーサー殿下の声が聞こえたかと思うと、全く動かせなかった私の身体は簡単に彼の腕の中へと引き寄せられる。
「アーサー殿下!?」
当事者のエミリアやアラン様、クラース様だけではなく、外野の人だかりも皆一斉に殿下へと注目する。
そんな中アーサー殿下はアラン様へ拳を振りかざした。
「殿下、殴っちゃダメ……!」
私の静止も虚しく、彼の拳はアラン様の顔面を殴り飛ばした。
宙を舞うアラン様。
⸺⸺突如、場面が切り替わった。
そこは、私の実家の屋敷前だった。いや、正確に言えば“元実家”である。
屋敷の中からは、高価な家具が次々に運び出されていた。
「これは一体……!? エイデン男爵?」
隣でアーサー殿下が唖然としている。
「あ、アーサー殿下も一緒にこの場面に移るんですね……」
私は苦い顔をして彼へ語りかけたが、一緒にいてくれるのは正直安心する。
「ディアナこれがまさか……バッドエンドというやつか……」
「そうです。多分アーサー殿下が殴った瞬間に、バッドエンドが確定したんです」
「くっ、そうだったのか……それは、すまん……」
「いえ、私は嬉しかったです……」
「自分でも歯止めがきかなくてな……参ったな……だが、なぜ俺がアランを殴ったことで、お前がバッドエンドに?」
「うーん……なぜでしょう」
そう2人で話していると、隣から幼い声が次々に聞こえてくる。
「パパー、僕のおうちは?」
「あたちのくまちゃんつれていかないで……」
「ママおなかすいた……」
「うぇーん……」
「うわぁぁぁん」
「おぎゃー、おぎゃー」
「……こんな形でお前の一番下の末っ子と初対面をすることになるとは……」
アーサー殿下は切なそうに一番下の弟を見つめていた。
ここで、父のエイデン男爵がポツリと独り言を呟いた。
「せっかく魔法杖職人の名門、アルマージ伯爵のご子息とディアナの縁談が進んでいたというのに……まさか、アーサー王子をたぶらかした挙句、マクミラン男爵令嬢の婚約者とあんなことをしてしまうとは……。彼女とは親友ではなかったのか……?」
彼はそう言い残し、トボトボと歩いて行った。
「私がバッドエンドの理由、全部言っていきましたね……」
「……そうだな」
どこからともなく、悲しげな音楽が流れてくる。
~ヒュルリラ~♪ ヒュルルリラ~♪~
「何なんだこの物寂しげな音楽は!?」
アーサー殿下はそう言ってキョロキョロする。
「あの……演出です……」
「悪意がないか? この演出……」
「悪意しかないと思いますよ」
「なんてゲームなんだ……」
「時計、押しますね」
「そうだな。とりあえず早くこの寂しい雰囲気から逃れたいな」
私はポチッと、それを起動した。
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