第22話 上書き

⸺⸺ループ後、アーサー殿下の自室にて。


「お疲れ様です、アーサー殿下」

「ディアナ、こっちに来い」

「? はい」

 私は転送装置からアーサー殿下のいるソファまで小走りで駆け寄った。


 アーサー殿下はソファから立ち上がると、私を抱きしめ噛み付くようなキスをしてきた。

「……殿下?」

 キスの合間になんとか彼へ話しかける。しかし、彼は角度を変えて何度も何度もキスをしてきた。

 イチャイチャしてキスをすることは何度もあったけど、こんな激しいのは初めてだ。


 そしてようやく解放される私の唇。

「ど、どうしたんですか、殿下……あ、いや、こういう激しいのも……好きですけど……」

「……これで、アランのキスはかき消せただろうか……」

 殿下、それは上書きですね! 嬉しい、嫉妬してくれたんだ。


「大丈夫です、殿下の激しいキスのおかげで、もう頭の中は殿下のことしかありませんよ」

 私がそう返すと、彼は「そうか……」と照れてはにかんでいた。


 私はここで、良からぬことを考えつく。

「アラン様はキスだけでしたけど……ダメアンには……2回も処女、奪われてます……」

「な、何だと!?」

 彼は案の定、絶望感に満ちた表情を浮かべる。


「しかも、そのうちの1回は、殿下にお酒を進められて断れずに飲んだら、ダメアンにお持ち帰りされたんですよ?」

「なっ……俺は目の前でダメアンにお前が連れていかれるのを、黙って見ていたと言うのか……!?」

「そうです」

「俺は……なんて愚かなことを……!」


 殿下は多分、身体の関係はちゃんと婚約してから、とか考えてくださってる。

 それはそれで大切にしてくれてるってことだから嬉しいし、時折我慢するような仕草を見れるのは結構萌える。


 でもやっぱり……私、殿下に抱かれたい……!

「それは上書き、してくれないんですか? 私の記憶の中には、まだダメアンに抱かれた記憶が……」

「それはダメだ……! くっ、そんなことを言われては……もう我慢できん……!」


 私はソファに押し倒され、今回のループでの処女をアーサー殿下に捧げた。


⸺⸺


 事後。

「すまん……まだ婚約前だというのに……」

 アーサー殿下はパンイチでソファに座り、勝手に自責の念にかられていた。

「庶民の間では、婚約前にするなんて当たり前のことなんですよ?」

 私は服を着て、彼の隣へと腰掛ける。


「なっ、そうなのか?」

「だから私、実はちょっと寂しかったんです」

「そうだったのか! それは悪かった……」

「殿下のお気持ちも嬉しかったし、こうして今願いがかなったので、大丈夫です」

 私はニッと笑ってみせる。

「お前には、敵わんな……」

 殿下もそう言って微笑み返してくれた。


 そして私たちは、まだループしてから入学式しか終えてないことに、今ようやく気付いたのであった。



 

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