第20話 バグ展開

⸺⸺学園祭、夜。


 私は学園祭会場の入口へと向かう。張り切って約束の時間の30分も前に来てしまった。

 さすがにアーサー殿下はまだいないよね……と思っていると、後ろからトントンと肩を叩かれる。


「ディアナ、早かったな」

「アーサー殿下!? 殿下こそ、まだ30分前ですよ?」

「お前に1人で待たせる訳にはいかんからな。やはり早く来て正解だったようだ」

「もぅ……殿下ったら……」


 夏のお祭りのような、屋台のたくさん出ている大通りを2人で歩き出すと、周りからヒソヒソと声が聞こえてくる。

「アーサー王子じゃない? 誰、あの一緒にいる子……」

「見て、あの冷徹なアーサー王子が笑ってる……! あの子恋人なのかしら……」


 そんな声を殿下も聞き取ったのか、申し訳なさそうに口を開く。

「悪いな。やはり少しでも変装してくるべきだったか……」

「いいえ、私正直今、めちゃくちゃ優越感です。これだけで、今日2人で来て良かったなって思えます」

 私がそう返してニッと笑うと、彼も「それなら良かった」と笑い返してくれた。


⸺⸺


 2人で学園祭を楽しんでいると、ついにエミリアを発見する。彼女はアラン様とクラース様と3人で歩いていた。


「見つけたエミリア……!」

 私は声を潜めてアーサー殿下の影に隠れながら言う。

「この辺りなら声も聞こえそうだな。少し様子を伺おう」

「はい」


「じゃ、僕みんなの分買ってくるから、2人はここで待ってて」

 アラン様がそう言ってその場を離れる。すると、クラース様がエミリアの肩に触れた。


「なぁ、エミリア。お前今日、あんまり楽しそうじゃないよな。あいつのこと、あんま好きじゃないの?」

 と、クラース様。


 うわ、こんな展開私知らないんだけど。そもそもアラン様と3人でいる事自体がもうありえない。

 もしかして、私が学院を退学にならずに生き残ってるから、展開がバグったとか?


「そんなこと、ないですよ。元々人混みはそんなに得意ではないので。アラン様のことはお慕いしています」

 偉いぞエミリア、大人の女性の返しだ!


「そっか、なら、あんま人いないとこ、行っちゃう?」

 クラース様、それはハニートラップでは……!?

「それならアラン様が戻られてから、移動しましょうか」


「俺と2人じゃ、嫌?」

「すみません、アラン様と婚約している身ですので」

「俺はさ、例え貴族同士の結婚でも、君とは愛し合えると思うんだよね……試してみる?」

 クラース様はエミリアの腕をつかむ。

「試しません、やめてください」


 エミリアがツーンと塩対応を取ってもなかなか引き下がらないクラース様に我慢の限界が来た私は、アーサー殿下に断りを入れて、彼女らに介入をした。


「彼女、嫌がってるじゃないですか。その手、離してください!」

「ディアナ!? どうしてここに……」

 驚くエミリア。


「お前、エミリアの友達?」

「そうですけど、何か」


「参ったな……どうすっかな……」

 クラース様はそう言いながらエミリアの腕を解放する。


 すると、このタイミングでアラン様が戻ってきたようで、私は彼にトントンと肩を叩かれる。

「ねぇ、君……」

「はい?」


⸺⸺そして振り向きざまに、私はアラン様に唇を奪われた。

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