第17話 あぁ、エミリア

⸺⸺月末。


 多分、昨日の学院がお休みのときにエミリアはアラン様と対面したんじゃないかと思うんだよね……。


 そう思っていると、案の定ランチの時にエミリアにその報告を受けることになる。


「昨日ね、婚約者のアラン様とお会いしてきたの」

「おぉ、昨日だったんだ。どうだったの?」


「あのね、可愛らしいお顔でツンと澄ましてとても素敵な方だった」

 エミリアはそう嬉しそうに言う。アラン様はアイドル顔だもんね、可愛いよね。

「そっかぁ! 素敵な人で良かったじゃない。これからデートとかして仲を深められたらいいね」


「うん……! アラン様のお母様が2人きりの予定を立てて下さって、次の休みの日にデートをしてくることになったの」

 アラン様本人ではなくお母様が……。うむ、雲行きは怪しいな。

「良いね! 楽しんできてね。ちゃんとどんな感じだったか話してよ?」

「ありがとう。うん、もちろんだよ。また聞いてね!」


 エミリアはアラン様へ好印象。アラン様は恐らく想定通りイマイチっと。

 その晩アーサー殿下の部屋を訪れると、このやり取りの一部始終を彼にも報告した。


⸺⸺


 さて、その休みの日の翌日。私はソワソワしながらエミリアがランチに来るのを待つ。

 あれ、エミリア遅いな……。


 あ、来た……って、明らかに落ち込んでる!


「ディアナ……やっほー……」

「エミリア……昨日、何かあったんだね……」

 彼女はこくんとうなずいた。

「アラン様、全然楽しくなさそうだった……」

 ありゃ、やっぱりか。


「そうなんだ……まだ慣れてないからかな?」

「なんかね、そんな感じじゃなくて、根本的に婚約が嫌だったみたいで、“貴族の結婚に愛なんていらないんだから、母上もこんな面倒くさいプラン立てなくていいのに……”だって……」


「うわぁ、それエミリアに直接言ってきたの?」

「うん……楽しくないですか? って聞いたら、そうやって言われたの。それで、昨日は予定より早めにお開きになったの」


「うぅ……そうだったか」

「でも、これが本来の貴族の結婚なんだよね。本来愛なんていらないんだから……私は勝手に彼のこと好きでいてもいいよね?」

 エミリア、なんて前向きな!


「エミリア、私、あなたの恋応援するから……!」

「ありがとうディアナ!」


⸺⸺それから10日後の早朝。


 私が自分の部屋で授業に行く準備をしていると、エミリアが部屋の戸をトントンとノックしてくる。


「どうしたのエミリア……って、何その荷物!?」

 戸を開けると、大きな荷物を抱えたエミリアがうつむいて立っていた。


「私、退学になった」

「ええええ!?」

 頭の中が真っ白になる。急すぎない?


 黙るエミリアに私は恐る恐る尋ねてみる。

「な、何でか聞いてもいい……?」

「……あのね、アラン様と婚約してるのに、別の男性と、その……関係を持っちゃって、その場面を偶然アラン様のお母様に目撃されちゃったの……」


 エミリア……知らない間にハニートラップに引っかかってた……!

「えっと……誰?」

「クラース・アンドレイ様……しかも、クラース様にも遊びだったって言われちゃった」

 うわぁ、バッドエンドの展開そのまま!


「それでね、私のその愚かな行為のせいでお父様のお仕事がなくなっちゃって、私貴族じゃなくなったから……この学院にもいられないの……」

「そんなエミリア……」


「じゃぁね、ディアナ。あなたには良い縁談が訪れますように……」


 エミリアはそう言ってトボトボと去ってった。

「あぁ、エミリア……!」


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