第13話 転送装置と記憶のアルバム

 指導室から離れたところで、アーサー殿下が口を開く。

「俺たちは世間的には何でもない関係だ。変に噂を広げないためにも、一旦ここでお別れだ」

「……はい、そうですよね……」

 私は思わずしょんぼりしてしまう。だって、せっかく会えたのにすぐお別れだなんて。


 すると、アーサー殿下はなぜか嬉しそうに微笑む。

「そう落ち込むな。自分の部屋に戻ったらさっき渡した包を開けて、中の魔具を“エミリアからは見つからない天井の高い場所”に設置してほしい」


「魔具? てっきりタオルだと……」

「まぁとにかく、魔具を設置したらすぐに起動してくれ。その先で待っている。じゃぁ、また後で」

「えっ……分かりました……」


 スタスタと去っていってしまったアーサー殿下の背中をボーッと眺める。

 一体どういうことなんだろう……。でもきっと、アーサー殿下のことだから何か素敵な考えがあるに違いない。


 そう考えた私は猛ダッシュで寮の自室に戻ると、殿下からもらった包を開けた。

 そこにはちゃんと可愛らしいタオルも入っており、その下に殿下の言っていた魔具が入っていた。


「何これ、コースターかな?」

 そう、見た目はグラスなどコップの下に敷くコースターのような薄い円形のものだった。


 これをエミリアからは見つからない天井の高い場所に設置する……と。

 つまり、エミリアを部屋に招いたときにバレちゃいけないってことだ。

 それならウォークインクローゼットの中がいいかも。そこまではエミリアも入ってこないし。


 私は早速ウォークインクローゼットの中に設置する。

 すると、ブンッという起動音と共に光の魔法陣が現れた。


「うわぁ、何これすごい……。この先で待っている……? ここに乗るのかな……」

 私は恐る恐るその魔法陣の中へと入った。



⸺⸺アーサー殿下の自室⸺⸺


「おっ、来たか」

「アーサー殿下!? あれ、ここアーサー殿下のお部屋だ!」

 私は気付けば彼の部屋の隅に立っており、足元には同じ魔法陣が描かれていた。


「いつまでそんなところに突っ立っているんだ。早くこっちに来い」

「あっ、はい!」

 私は嬉しくなってソファに座っている彼に駆け寄り、隣へもふっと腰掛けた。


「これで周りの目を気にしなくても良くなったな」

「はい、嬉しいです!」

 私は満面の笑みを浮かべる。頬を赤くするアーサー殿下。


「……それにしても、ループしたら毎回ダメアンを呼び出すのは面倒だな……」

「あっ、それなんですけど……」


 私はここで彼に『時戻りの懐中時計』の時を進める機能を説明した。

 そして、更なる魔法アイテムの存在を思い出す。


 私は転送装置で一旦自分の部屋に戻ると、勉強机の本棚に立てかけてあった1冊のアルバムを取り出した。


 そしてまたすぐにアーサー殿下のお部屋へと戻る。


「これは『記憶のアルバム』って言うんです」

「ほう」

 彼の隣に腰掛け、そのアルバムを開いてみる。


「これは……ダメアンの出来事が記されているのか?」

 と、アーサー殿下。

 そこには『ダミアンとリリー教官の相思相愛の関係……CLEAR』と書かれていて、ダメアンがムチでしばかれている写真と共に、簡単なあらすじが記入されていた。


「そうです。1つの大きなイベントを乗り切ると、そのイベントがここに記録されて、今後スキップできるようになります」


「つまり、もうダメアンのことは考えなくていいという解釈でいいか?」

「その通りです。なので、もうダメアンを呼び出したりとか、懐中時計でそこまで時間を進めたりしなくても、このイベントは勝手にクリアした事になります」


「なるほど。それでエミリアの心配事を全部取り除いていけば、お前の悪役も回避できるという訳だな」

「はい!」


 その日私たちは、殿下のお部屋でダメアン攻略記念のプチお祝いを一緒にした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る