第12話 ダメアン攻略?
⸺⸺5回目の正門。
チュンチュン……チュン。
「念願の、王宮学院だね。頑張ろうねディアナ」
「ええ、頑張りましょ!」
私は5回目にして初めて、本来ディアナが言うセリフからスタートをすることができた。
エミリアと仲良く校舎へと歩いていく。
ふと校舎を見上げると、2階のバルコニーからアーサー殿下が顔を出していた。
殿下は私と目が合うと、胸ポケットから私のタオルを取り出してひらひらさせていた。
あっ……また返してもらうの忘れてた……。
私はてへっと笑ってみる。すると、彼も静かに微笑んでバルコニーの中に入っていった。
良かった、アーサー殿下もまたちゃんと記憶がある!
2人だけで秘密を共有しているこの感じ……最高かも……。
これだけで私は何回やり直してもいいやと思えるのであった。
入学式後の寮の自室で魔法の文字盤を見てみると、ループしてすぐの時間に既にメッセージが入っていた。
『ちゃんと記憶を持って一緒にループしているから安心しろ』
丁寧で達筆な筆跡。
『良かったです!タオルごめんなさい(*_ _)՞՞』
すぐに返事が返ってくる。
『タオルはお前を安心させるため、あえて返さなかった。今度代わりの物を贈ろう』
『わぁ ありがとうございます! 楽しみです(˶・ω・˵)♡』
はぁ……その真っ直ぐに気遣ってくれる感じ……最高です……。
『7日後の授業後にリリー教官へアプローチをする。アナウンスが入ったらお前も指導室に来るように』
『分かりました! お願いします(*ᵕ ᵕ)⁾⁾』
そのアーサー殿下のメッセージ通り、7日後の授業後にアナウンスが入る。
“商業科2年、ダミアン・バシュレ様。騎士科のリリー・ランディス教官がお呼びです。至急本館1階の指導室までお越し下さい”
来たぁ!
授業が終わって本館1階の廊下でスタンバっていた私は、すぐに指導室のある廊下へと向かった。
どこに隠れようか……そう思っていると、廊下の曲がり角の向こうからアーサー殿下の腕が伸びて、そちらへ引き込まれた。
「アーサー殿下!」
「ん、そろそろ来る頃だ。ここで2人で話しているフリをしていよう」
「分かりました」
「それで、今のうちにこれを渡しておこう」
アーサー殿下は10cmほどの綺麗に包装された箱を渡してくれた。
「これ、前にメッセージでおっしゃっていた……」
「そうだ。後で開けてくれ」
「わぁぁ……嬉しいです。ありがとうございます!」
私ははにかんで箱を胸に抱きしめる。すると、アーサー殿下は頬を赤らめて微笑んでいた。
あぁ、幸せ。もうダメアン来なくても良いんだけど……。
と、思っていると、ダメアンが指導室をトントンと叩いて中に入っていった。
「ディアナ行くぞ。こっちだ」
「はい」
私たちは指導室前の廊下へ移動し、そこで2人で話しているフリをする。
すると、すぐに指導室から声が聞こえてきた。
「あああ、ハイヒールに……ムチ……! は、初めまして、ダミアン・バシュレと申します。本日はお呼び出しいただき光栄です!」
ダメアンは何で呼び出されたのかも分からないままに、もうすでに興奮している。
「あんたがその腐った根性を叩き直してほしいっていう豚野郎ね」
リリー教官がそうモッタリと言う。
「ぶた……!? は、はいぃぃ、俺は豚野郎ですぅ……!」
「甘ったれてんじゃないわよ!」
ピシッとムチが床に叩きつけられる音がする。
「ひぃぃ、ごめんなさい……」
「アタシにどう指導してほしいのか言ってみなさい、豚野郎……」
「お、俺のことをその素敵なハイヒールのかかとでグリグリしてそのムチでピシピシしてくだしゃぃぃ……!」
「ふぅん……アナタ、ドMな豚野郎なのね。アタシ、興奮してきちゃった……いいわ、アナタの望み通りのアツい指導、してあげるわ……」
「ありがたき幸せ……! はぁんっ♡」
それからはムチの音とダメアンの幸せそうな喘ぎと、リリー教官の罵倒する声だけが聞こえてきた。
「うぇぇ……もう限界なんですけど……」
音声だけで分かる地獄絵図に、私は思わず耳を塞ぐ。
「も、もういいか……。とりあえず彼らが相思相愛になっただろうと言うことは推測出来たよな……」
「はい……」
「……ひとまず、別の場所に移動しようか……」
「はい……」
私たちは自分でセッティングしておきながら、耐えられなくなってすぐにその場を離れた。
とりあえずダメアンは攻略……出来たのだろうか。
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