冬夜視点 転換点

 俺と蛇神は、どこで接点が生まれたんだろう。

 大体昔話だとこういう時、きっかけは二パターンある。蛇を助けるか、蛇を殺したかだ。

 蛇を何度か見たことはあるが、助けた記憶も殺した記憶もない。蛇はすぐ逃げてしまうからだ。

 だから俺は、まず『蛇』について調べることにした。


『蛇』を神として崇める文化は、古今東西にわたる。

 例えばギリシャ神話の医療の神アスクレピオス。彼が持つ杖は、蛇が巻きついている。現在は世界保健機関の旗にも描かれている。蛇は、「生命力」「永遠」を表してきた。

 同時に、毒を持ち、命を奪う存在としても描かれる。

 日本神話において有名なのは、ヤマタノオロチだろう。八人の娘を食うために現れ、スサノオに退治される。

 蛇神は与えるものとして崇められ、奪うものとして恐れられてきた。


 では、この町の蛇神とは、どんな神様なんだろうか。

 町史で調べてみたところ、それらしいものは一文だけだ。


【荒ぶる神が、通行人の半分を生かして半分を殺した。天皇によって退治され、ここは豊かな土地となった】


 古代の神を匂わせる伝承は、これだけだった。それがどこの神社で祀られているのかもわからない。

 音子さんは『霊脈の主』が蛇神だと言っていた。『妖怪食堂』は霊脈のそばにあるから実体化するんだと、小野が言っていた。――ということは、あの近くに蛇神を祀る何かがあるかもしれない。

 行ってみるか、と考えていた時、古代の歴史について気になる項目が見つかった。



【白村江の戦いの後、この町には太宰府を守るための開藤軍団が置かれた】



 ふと、日本史の授業を思い出す。

 律令国家において、諸国に配置されたのが軍団。国民に課せられる兵役の一つで、各地の軍団に十日務めることが求められた。 

 この辺りだと、もっとも年季の長い防人の方が有名だが、軍団もあったんだな。

 ――そう思った瞬間、次の文章に目を疑った。

 


【その中でもっとも容姿にすぐれ、教養をおさめ、武芸の立つものが『番長』に選ばれた。その後衛士を務めた記憶がある】


「……番長?」

 

 俺がそう呟いた瞬間、スマホのバイブレーションが鳴る。

 電話は、店長からのものだった。

 珍しい。メッセージじゃなくて、電話がかかって来るなんて。


「もしもし、冬夜です。どうしましたか?」


 その次の言葉で、一気に血の気が引いた。

 

「……え?」


 

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