デートしていた事がバレました? 3

「だってアイツ、ブラコンだもの」ちーちゃんが言う。


「何でもかんでも弟優先じゃ、百年の恋も冷めるっての」


 ブラコンって。

 冬夜くんは夏樹くんが心配なだけで、ブラコンでは無いだろう。

 ……と言っても、夏樹くんの事情を知らないと、冬夜くんの態度は、少し変わっているかもしれない。小野家にも兄や姉がいたけど、みんな不干渉だった。不仲というわけじゃないけど、それぞれが「一人っ子」の集まりというか。兄弟ってそういうものだと思っていたから、「こんなに仲のいいきょうだいもいるんだ!」って思った。


「ま、アイツ、精神年齢が高いから、同級生は子どもっぽくて付き合えないだけなんでしょうけど」


 でも、とちーちゃんは続ける。


「『弟がいるから、デートとかは出来ない』って、告白されるたびに言うのよね、アイツ」

「あ、あー……」


 それはいけない、冬夜くん。

 限りなく真実なんだけど、それはいけない。


「その状態で、あかりと冬夜がテーマパークに行くんだから、『本命なんじゃ?』ってざわつくわよね。

 しかも転校して日も浅いから、仲良くなる時間なんてそうないでしょ。『実は幼い頃別れた幼なじみで、転校してきた日に運命的に再会した』なんてバックストーリーが出来てるぐらいよ」

「本人の知らないところで、話がめちゃくちゃ膨らんでいる……!」


 私は思わず頭を抱えた。

 なめていました、中学生の恋愛事情。恐るべし、冬夜くん。そこまで話が複雑だったなんて!

 はあ、と私はため息をつく。


「皆、どうやってそこまで人を好きになれるのか、教えて欲しいよ」


 気づけば、ため息と一緒に、心の底に置いていた疑問も出していた。


「私は、自分に向けられる特別な好意や親切より、分け隔てなく与えられるものの方が好きなの」


 条件付きの愛情というのが、怖いんだと思う。

「私個人」に向けられる愛情は、いつ無くなるのかわからなくなる。だって、私には何も無い。誰かに役に立てるものも、美貌も、繋げとめられそうな長所がない。自分がどうにかしなければ爆発してしまう、時限爆弾のようなものだった。

 だったら、何もなくても、誰に対して優しい人から貰う「普通の親切」が、ずっと嬉しい。

 そう考えると私は、恋愛には向いてないのかもしれない。


「……なんか、難しいのね」


 ちーちゃんがふりしぼったようにそう言った。

 気を遣わせないよう、私は乾いた笑みを浮かべる。


「難しいんじゃないの。めんどいの」


 本当、自分ほど面倒くさい人間はいないんじゃないかな。少なくとも、この学校の中では。

 でも私は、それで良かったのかもしれない。

 少なくともちーちゃんが言う冬夜くんの「欠点」は、私にとっては欠点じゃない。私にとっての冬夜くんの長所は、ケンカが強いことでも、頭が良いことでも、ルックスがいいことでもない。夏樹くんに対する想いだ。

 ああ、でも。

 心のどこかで、冬夜くんが私にだけ秘密を明かしてくれたことを、喜んでいる。

 同時に、悲しくもなる。


『妖怪が視える』こと。それだけが、私と冬夜くんを繋ぎ止めているものだ。そのステータスは、私の努力で得たものでも、誇らしい能力でもなかった。

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