デートしていた事がバレました? 2
誰もいなさそうな階段に腰掛けて、私たちはお昼ご飯を広げる。
「ごめんね、真里亞がバカなことして」
ちーちゃんが、購買で売っているパンの袋を開けながら言った。
「どうってことないよ。でも、助けに来てくれてありがとう」
私の言葉に、ちーちゃんの表情がいくぶんか和らいだ。
「それで、恥の上塗りなのは承知なんだけど……さっきあったこと、冬夜には黙っていてくれる?」
「それはいいけど……真里亞さん? と、ちーちゃんって、幼馴染なの?」
「ん。幼稚園の頃からのね」
それは随分長い付き合いだ。
「あの子、根が素直でバカだから、周りの悪意に染まりやすいっていうか……あの写真も、真里亞が撮ったものじゃないと思うんだよね」
「あ、うん。それはわかってる」
盗撮したのは、田中と佐藤。覚えた。
「入学した時は、あんなこと言う子じゃなかったんだけどさ」と、ちーちゃんは言った。
「生まれがいいとこのお嬢様ってやつで、育ちもよかったから、それで周りに『お嬢様』ってからかわれたり、口調を真似されたりしてさ。正しいことを言ったりやったりするたび、『真里亞はお嬢様だからわがままなんだ』なんて、根も葉もないこと言いふらされて。無視すりゃいいのに、真面目だから、『自分は甘やかされたわがままな人間なんだ』って本気で思うようになったの。
そうやってだんだん、『自分より他者の方が正しい』って、思っちゃってるんだよね」
だからって、あんなことしていいわけじゃないんだけどさ。ちーちゃんはパンをかじりながら言う。
『アンタは間違っているの。私の言うことを聞けばいいの』
過去のことが、頭の中でよみがえる。
『自分より他者の方が正しい』。その感覚は、私にもあるものだった。
「そんな時に、冬夜に助けられて一目惚れして、ガンガンアピールしてたんだけど、それがまた女子たちのひんしゅくを買ってね。人格を徹底的に否定されたの。
それでも何とか周りに合わせて頑張ったら、洗脳されたというか。あんな風にいいように使われて、ほかの女子の牽制に使われてんの」
「……それは、キツイね」
真里亞さんも、それを見ていたちーちゃんも。
「あの子のやらかしはあの子の責任ではあるんだけど……自分の判断に自信の無いあの子を、都合よく使っている人間の方がよっぽど悪人なのに、そいつらは全然証拠を残さないのよ」
ぐしゃり、と、空になったパンの袋を握りしめる。
それがちーちゃんの悔しさの表れだと思うと、ますます切なかった。
「だから、嬉しかったの。あかりが、ああ言ってくれて」
「え?」
何か言ったっけ?
「最初に会った時、『自分はステータスで人を見ない』って言ったでしょ? あれ、本当に嬉しかった。
あの子はずっと、『金持ちのお嬢様』としか見られなくて、利用されていたから……」
ああ、と私は納得した。
あの言葉は、冬夜くんじゃなくて、真里亞さんを想ってのことだったんだ。
もしかしたら、「売られたケンカを買った」というのも、真里亞さんを利用しようとする人たちから守ったものなのかもしれない。
そう思うと、私はするり、と思ったことを口にしていた。
「好きなんだね、真里亞さんのこと」
ブハッ!!
ちーちゃんが、飲んでいた豆乳を吹き出した。
「……」
思わず私は、目を瞬かせる。
ちーちゃんは顔を真っ赤にしながら、黙って口元を拭っていた。
……私は「友愛的な好き」で言ったつもりだったけど、どうやらこの反応は、「そういう好き」の方らしい。野暮な事をしてしまった。
「さっきの言葉、聞かなかったことにしてくれる? 私も、見なかったことにするから」
「お気遣いどうもありがとう……」
ちーちゃんは一通りハンカチで拭ってから、「私のことはいいのよ!」と切り返す。
「で、どうなの、あかり。行ったの? 冬夜とデートに」
「デートっていうか……なんと言うか……」
まさか妖怪の話をするわけにもいかないので、私ははしょることにした。
「単に一緒に遊びに行っただけだよ。付き合ってるとか、そういうのじゃなくて」
「ふーん。ま、そうよね」
あっさりとちーちゃんは納得してくれた。
「あいつにあかりは勿体ないもの」
「勿体ないって……」
ちーちゃん、『ルックスもいいし、成績も優秀。面倒見もいいから、すっごくモテる』って言ってなかったっけ?
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