第9話 あかり、冬夜の不安を知る②

 ……のが、数時間前。

 なんということでしょう。私、今、絡まれています。


「おい、お前。何してんだ」


 コンビニの前。

 漫画でしか見たことの無い詰襟の制服に、オールバックで決めている男子が、私の目の前に立ち塞がっていた。

 何でこうなったかと言うと、ギュウギュウ詰めに駐輪された自転車を、私がうっかりドミノ倒ししたから。停める場所がなくて、かつ、一つずつ動かすのが面倒で割り込もうとしたのがいけなかったよ。


「もっと丁寧に扱えや! テメェどこ中だこらぁ!」

 

 制服見てわかんないのかな?

 とか思ったけど、私自身も彼らの制服見てもわかんない。こんな服装、どっかの成人式のニュースで見たな。

 というか、この町来てビックリしたのだけど、自転車も派手だな。なんならここに並んでいた自転車、ゲーミンク色だし。

 とか何とか考えてたら、黙ってしまっていると勘違いされて、「何か言えや!」と言われる。その時だった。


「何してるんだ、こんなところで」


 後ろから、冬夜くんの声が聞こえた。

 制服じゃなくて、私服の姿だ。家が近いんだろうか。


「竜二、彼女はうちの生徒だが、何かあったか?」

 

 冬夜くんがそう言うと、怒鳴っていた男子が舌打ちした。


「冬夜、後で言っておけよ。モノは丁寧に扱えってな」


 そう言って、彼は自転車を起こして去っていった。

 ……丁寧に他の人の自転車も起こして、ついでにヘルメットも被って。


「大丈夫か、小野」

「うん、ありがとう。冬夜くんが来てくれて、助かったよ」


 喧嘩することなく、一言だけでおさめるなんてすごい。

 私、基本妖怪相手と戦うから、人間の、それも中高生との戦いなんてしたことない。このまま掴み合いになったら、どれぐらいの力なら壊れずに済むのか悩んじゃったよ。

 って言ったら、

 

「まるで力加減がわからない、巨人みたいなセリフだな」


 ……なんで冬夜くんから、貼り付けた笑みを向けられてるんだろ、私。


「ところで、さっきの……人たちは?」

「ああ、暴走族だ」

「……スピードが出なさそうな暴走族だね」


 近頃の暴走族は、盗んだバイクじゃなくて、ゲーミング色の自転車で暴走するのか。


「いや、あれ電動自転車だから、普通にスピード出るぞ」

「そこは時代が進んでんの!?」

「冗談だ。道路交通法で、既製品の電動自転車はそこまでスピードは出せない。そもそも、竜二は暴走族じゃなくて、自転車愛が強いだけだ」


 なるほど。おまけに電動自転車なら、電気で動く分壊れやすいだろうし、高いだろうな。少々過剰な気もするけど、自転車倒して謝らなかった私も悪い。

 そう言うと、冬夜くんはちらっと私の自転車を見て、こう言った。


「……多分、そういうことじゃないだろうな」

「え?」

「いや。――この町は自転車が主な交通手段だから、何かあったら、『ヤマグチ』に行くといい」


 そこ、ほとんど金取らないでメンテナンスしてくれるから。冬夜くんの言葉に、なるほど、と私はうなずく。


「けど、ちょうどよかった。小野、少しいいか」


 私を見据えて、冬夜くんは言った。


 


 

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