あかり、完璧ブラコン番長とデートする?
第10話 テーマパークは心霊スポット?
テーマパーク『グリーンワールド』。
平たい入口から、大きな観覧車が回っているのが見えた。
「大丈夫? 冬夜くん」
「大丈夫……」
人が並ぶ朝十時。私の隣には、顔色がすこぶる悪い冬夜くんがいる。朝一で電車に乗ったから、しんどいんだろうな。
なんでこうなっているかというと――事の発端は、冬夜くんの相談事だ。
■
『え! 夏樹くん、遠足でテーマパーク行くの!?』
私の言葉に、ああ、と冬夜くんはうなずく。
冬夜くんの『相談事』とは、夏樹くんが一週間後に行く遠足のことだった。しかも、この地方でも有名なテーマパークだ。
すご。私が小学校の時、近所の公園まで歩くぐらいだったよ。
『相談というのは、そのテーマパークに、怪異の噂があることなんだ』
その言葉に、なるほど、と理解する。
テーマパークは心霊現象が起きやすい。というのも、テーマパークとは、「非日常」を演出することが目的だからだ。
え、それだけ? と思われるかもしれないけど、これはある種の結界になっている。おまけに、テーマパークみたいに町と空間を区切るのは、『境』の概念だ。
異界へ通じる道は、主に『合』『穴』『境』の三つに分けられていて、そのうち『境』タイプは禁忌の地に迷いやすく、二度と帰れないこともあるのだ。
『俺には、その噂が本当なのかはわからない。けど、危険ばかりを恐れて、ナツが楽しむ機会を奪うこともしたくない。……過剰な判断かもしれないけど、』
『オッケー。私が事前調査をすればいいんだね』
私がそう言うと、『必要経費は俺が出すよ』と冬夜くんが言う。
『いらないいらない。店長から貰うし』
『いや……でも……』
冬夜くんの表情が暗い。
まあ確かに、テーマパークって入場するだけでお金取られるし、アトラクションを全部チェックするとなると、それなりにお金を使うだろうな。冬夜くんはそこを心配しているんだろう。
私は少し考えて、こう返した。
『あー、でももしかしたら店長、何か知ってるかも。先に店長に聞いてみよっか』
で、『妖怪食堂』に戻って、店長に聞いてみたところ。
店長は、机に両肘をついて、真面目な顔でこう言った。
『冬夜くんと。一緒に行きなさい』
『……なんで?』
『店長命令です。冬夜くんと。一緒に行きなさい』
『いや、店長。これ、遊びに行く相談じゃないんですよ?』
そもそも冬夜くんは、妖怪や幽霊が視えない。『境』になった場所なら視えるかもしれないけど、視えたとしても、対怪異の訓練を受けていない彼を巻き込むわけにはいかない。
なんて言ったら、店長は元気よく『大丈夫!』と返した。
『ここに、「かくりよの眼鏡」を用意してるから! これ付けたら冬夜くんでも妖怪が視える!』
私は思わず、飲んでいたお茶を吹き出す。
『それウン十万するやつですよね!? 私にくれた衣といい、中学生にほいほい高価なアイテム渡さないでください!!』
『あ、冬夜くんのお金もこっちで用意するから、気にしないでって言ってね! あと、夏樹くんのごはんはこっちで用意するとも言っておいて!』
『余計気を遣わせませんか!?』
■
「本当にごめんね……店長のゴリ押しで、冬夜くんまで巻き込んでしまって……」
「いや、頼んだのは俺だ」
それに、と冬夜くんは言う。
「俺は足でまといになるからと思って言わなかったけど、本当は自分の目で確かめたかったんだ」
そう言って、観覧車を見上げる冬夜くんは、『かくりよの眼鏡』を掛けていた。
「ナツと小野は、こういう世界をずっと見てたんだな」
「大丈夫? 酔わない?」
テーマパークの入口には、人間だけじゃなく、妖怪や幽霊もちらほら見える。どれも無害な存在だけど、普段視えないものを視ると、慣れない人は気持ち悪くなると聞いていた。
「大丈夫だ。と言っても、フレームがあるのは何となく慣れないな。落ちてきそうだ」
「そっか。でも、気分が悪いなって思ったら、すぐに言ってね」
私の言葉に、ああ、と冬夜くんがうなずく。
それと同時に、前の人が去っていき、私たちの番になった。
学生割引でチケットを買ったあと、私たちはいよいよ入園する。置いてあったパンフレットを開きながら、私は尋ねた。
「まずはどこから調べようか。できたら、危険性の低そうなところから始めたいんだけど」
ちなみに、一番危険そうなのは『お化け屋敷』の噂だ。本物の幽霊が出るという噂で、インターネットでよく取り上げられる。そこは最後の方がいいだろう。
「それじゃあ、ここ、調べてみないか」
冬夜くんが指さしたのは……。
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