第2話 番長に呼び出されました①




 キンコンと鳴ってから、人がまばらに散っていく。

 教室で待っていると、少しして千尋さんがやって来た。


「ごめんなさい。HRが長引いちゃって」


 千尋さんは申し訳なさそうに片手を顔の前に出す。


「あかり、あ、呼び捨てしていい?」


 千尋さんの言葉に、私はうなずく。


「あかりって転校生よね? ここに来る前から、冬夜と何か関係があったりする?」

「ううん、全然。三日前に来たばっかりだし」


 なんなら、彼がこの学校の番長で、この町ではかなり有名な男の子だと店長から聞くまで、なんも知らなかった。


「千尋さんは、」

「私も呼び捨てでいいわよ」

「えーと……じゃあ、ちーちゃんって呼んでいい?」


 私がそう提案すると、千尋さん――ちーちゃんは、長いまつ毛を羽ばたかせるようにパチパチさせた。


「私、そんな呼び方されたの、初めてだわ」

「え、嘘。ダメだった?」

「ううん。ぜひそう呼んで」


 本人の許可をもらったので、私は続ける。


「その……ちーちゃんは、スケバン的な何か?」


 私は図書館にあった、昔の漫画の知識を思い出す。

 本人に聞くのは失礼かな、なんて思いつつも、いい言葉が見つからなかった。

 番長の冬夜くんと親しそうだから、そんな感じの繋がりなのかなって思ったけど、冬夜くんもちーちゃんも、見た目からはとてもそう見えない。


「ああ、違うわよ。冬夜の仲間ではあるけどね」


 ちーちゃんは笑いながら片手を振る。


「冬夜も私も別に、不良ってわけじゃないわ。

 単に、売られたケンカを買ったら、そう呼ばれるようになったの」


 顔を輝かせて、ちーちゃんは言った。

 ……なんでケンカが売られるのかな。セール中か何かなのかな。


「自分から人を殴るような男じゃないわ。人徳に関しては保証する。

 ルックスもいいし、成績も優秀。面倒見もいいから、すっごくモテるのよ」

「へー……」

「……でもあなた、あまり興味無さそうね」


 じっと、ちーちゃんが私を見る。

 反応が悪くて、嫌な思いさせちゃったかな?


「ごめんなさい、そういうの、話半分なの。

 ステータスで興味を持ったり、人付き合いしようっていうのは、その人の本当の姿を見失いそうだし。

 それに人と仲良くなるって、その人がすぐれているからじゃなくて、ご縁があるかないかだと思うから」


 すなおに私がそう言うと、ちーちゃんはとても面白そうに笑った。


「あかり。あなた、とってもいいわね」

「そう?」

「ええ。ステータスで人を見るなんて、とっても失礼だわ。それがわかっていないやつの多いこと」


 最後のとけとげしさに、私は思わずかわいた声で笑う。

 

「冬夜をアイドル扱いするならまだ許せるけど、『虫は排除しなきゃ』なんて言って、ちょっとでも話しかけた女子を呼び出したりするのよ? 私も何度嫌がらせされたか」

「う、うわー……大丈夫だった?」

「こてんぱんに叩きのめした」


 ちーちゃんはこぶしを握りしめて、胸のところで掲げる。強い。

「私、冬夜好きだけど、恋愛対象とかじゃないのよ。ってか、アレ見たら絶対無理」と吐き捨てる。アレってなんだろ。


「だから、呼び出し役は私だったの。冬夜が直接話しかけたら、あなたも被害を受けかねないから」


 本人が出向けなくてごめんなさいね、と言うちーちゃんに、そういうことだったんだ、と私は納得した。


「そう言えばなんで冬夜くん、教室にいなかったの? お休みしているんじゃないの?」

「ああ、うち、タブレットでどこでも授業に参加できるのよ。だから別室登校も家からも、なんなら録画した授業内容を見てレジュメ書けば、出席が認められるわけ。

 冬夜は低血圧で日中起きるのが辛いから、割とやってるのよ」


 へえ。タブレットはわかってたけど、そういうことも認められてるんだ。先進的で、多様性ある学校だなあ。

 ――なのに番長がある。番長(二回目)。


「ここよ」


 旧校舎の廊下の突き当たりのドアに、『オカルト研究会』と書かれたプレートが下がっていた。

 ……なんで人気者の番長が、オカルト研究会にいるんだろ。


「冬夜ー、入るわよー」


 きしむドアを開けて入ると、埃っぽい部屋に夕日が差し込んでいた。

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