あかり、完璧番長の秘密を知る
第1話 あの男の子の名前
「え!? 目が合った!?」
私が告げると、『妖怪食堂』の店長がぎょっと目を丸くした。
私は重たい瞼をこすりながら、「そうなんですよ」と告げる。
「昨夜は頑張ったんだし、今日は学校休んだ方がいいんじゃないかい?」店員である音子さんが、お盆に乗せた朝食を持って来てくれた。ふわふわと、二つに裂けたしっぽがゆれる音子さんは猫又だ。
大丈夫です、と答えると、「無理すんじゃないよ」と言って、音子さんは奥へ入っていった。
「『かくりよの衣』を着ていたんなら、普通の人間には視えないはずだよ? 気のせいじゃない?」
「いやあ……その後、『小野か?』って言われたら……」
「じゃあ視える子なのかな? っていうか、なんでそんな時間に中学生が出歩いているのか……」
「それは私もなんですけど」
私がそう言うと、「いやまあ、そうなんだけど」と店長が頭をかく。
「もし見える子なら、きっと大変な想いをしているだろうし、助けになりたいなって思ってね。その子の名前、教えてくれる?」
店長の言葉に、私はなんとか記憶を引っ張り出す。
たしか、私の二つ後ろに座っている男の子だ。涼しげだけど潤んだ切れ長の目に、整った中性的な顔。ただ、私も彼も、居眠りしている時間が長くて、あまり顔を合わせていない。
私は先生が呼ぶ彼の苗字と、クラスメイトが呼んでいた下の名前を思い出した。
「えーと、確か名前は、古田冬夜って言ってたかな?」
私がそう言うと、店長は持っていたお皿を割った。
■
「小野あかりさん、いる?」
昼休みの喧騒でもよく通る声に、うとうとしていた私はハッと顔を上げた。
教室の入口には、女の子が立っている。
「私だけど、ええと」
「篠塚千尋。千尋でいいわ」
ハキハキした言葉と、揺らがない真っ直ぐな目には、自信が満ちあふれている。それに姿勢も体幹もよさそう。艶やかで真っ直ぐな黒髪を腰まで伸ばして、横髪は戦国時代のお姫様みたいにカットされている。まるで、大河ドラマから飛び出してきた俳優さんみたい。
すごい美人さんだなあ、と目を奪われながら、私は続けた。
「千尋さん、何か用?」
私がそう言うと、少しだけ声を潜めて、千尋さんが言った。
「私じゃなくて、冬夜がね」
その名前を聞いて、私はひゅっと喉を鳴らした。
「授業が終わったら、オカルト研究会に来て欲しい、ですって」
どこだそれ。
私が目を丸くすると、「時間になったら案内するわ」と言われる。
「ああ、もちろん。何か用事があれば、今日は無理って伝えておくわよ」
「や、行く。行きます」
多分昨日のことを聞きたいんだろう。私も、冬夜くんが何者なのかハッキリさせたいし。
私がそう言うと、わかったわ、と言って、千尋さんは颯爽と去った。
私はちら、と後ろを見る。
彼の席には、誰も座っていない。そう言えば今日は、姿を見てないな。お休みかと思っていたけど、授業をサボっているだけ?
「……番長、か」
今朝の店長の興奮ぶりを思い出して、私は天井を仰いだ。
古田冬夜。店長いわく、学校どころか、この町で有名な男の子――もとい、番長らしい。
まさか、令和にもいるとは。番長。
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