第3話 番長に呼び出されました②

 その部屋は、まるで倉庫のように色んな書類や荷物が置かれていた。 コンクリートがむき出しになった壁際には、ファイルケースが置かれている。

 窓から差し込む西日が、キラキラと埃を弾いて輝く。

 なぜか小上がりの畳があるそこには、文庫本を顔に乗せて横たわっている男の子がいた。


「ほら、冬夜起きろ! あかり連れて来たわよ」


 ちーちゃんが文庫本を取り上げると、整えられた眉をひそめて、「ん……」と、低く甘い声をもらした。

 そのまま気だるそうに、ゆっくり身体を起こす。


「……今何時?」

「もう学校終わったわよ。はい、あかり」


 文庫本を脇にはさんで、ちーちゃんが私の肩をポン、と叩く。

 

「ど、どうも……」

「……ども」


 眠たそうな目で、こちらを見てきた。


「じゃ、私はそろそろ帰るから。またね、あかり」

「あ、うん! またね」


 去っていくちーちゃんを見届けると、冬夜くんが、「小野、千尋と仲が良かったっけ……?」と尋ねてきた。


「ううん。今日知り合った」

「……そうか」


 沈黙が流れる。

 ゆっくりと、冬夜くんが立ち上がった。

 ……こうしてみると、冬夜くんって、私とあんまり身長変わらないんだな。

 肩幅が広いわけでもない。表情は氷のように固まっているけど、厳つくはなく、むしろ中性的な顔立ちだ。

 それなのにオーラというか、振舞い方がどっしりとしている。本当に中学生?

 だけど一番びっくりするのは、彼の目だ。

 切れ長の美しい目の下に、泣きぼくろが一つ。その目の色は私と変わらないのに、まるで湖水のように深い美しい。その目に見られると、緊張で体が動かなくなりそうだ。

 

「……あ、あの」

「小野に会ってもらいたいやつがいる」

「あ、会ってもらいたいやつ?」


 冬夜くんは畳の上に置いていた通学鞄を持って言った。


「ついてきてほしい」


 こんなに人を付き合わせておいて、説明もない。

 なのに自分勝手な人だと、切り捨てられない何かがあった。

 慎重に与える情報を見極めるような、誠実な目だ。きっと、信頼するに足る人だと、私の直感がささやいた。






 向かったのは神社と公民館とが併設された公園で、今はもう散ってしまった桜の木が植えられている。代わりに、もう藤棚の花が咲き始めていた。

 その下にあるテーブルに、男の子が座っている。


 歳は小学校中学年から、高学年ぐらい。

 横顔からしか見えないけど、ツンツンした髪型に、利発そうなつり目の目をしている。

 そして、男の子の前に座っているのは、肉のかたまりをした生き物が、着物を着ていた。

 妖怪だ。

 男の子が、妖怪と話している。

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