目指せ、スローライフ!
教会が壊れて村の空気が悪くなる。これではスローライフを送るどころではない。まあ、誰かが再建してくれるでしょ。それまで待てばいいのだ。
「ねえ、お母さん。教会の再建までにどれくらいかかるの? 一年くらい?」
「はあ? 一年なんて無理よ。だって、この村に職人はいないのよ? 職人がいるのは都心部だけ。こんな田舎の教会を建て直すには早くても数年はかかるわよ」
え、ちょっと待って! 数年!? その間、スローライフはお預けなの? そんなに待てないんだけど……。
「じゃあ、どこかに引っ越そうよ。この村にいたら、ストレスが溜まるだけじゃん!」
「それは自殺行為よ。他の村へ行く途中で盗賊にでも襲われたらどうするの? それに、ここの人たちとの人間関係を切りたくないわ」
う、確かに移動するなら、危険がつきまとう。でも、人間関係はすっぱりと切っていいんじゃない? 私は今までそうしてきたから、抵抗はない。そもそも、この村に愛着はないし。でも、新しい村で受け入れてもらえるかは怪しいなぁ。現代の田舎でも新参者は嫌われる可能性があったのだ。中世なら村の結束力が強いから、余計に嫌われる可能性が高い。これじゃあ、八方塞がりじゃない! どうすればいいの?
そうだ、いっそのこと、村のみんなで再建するのはどうだろうか。これなら再建も早く進むし、人任せにできる。名案を思いついた私って天才かも。あ、今のは取り消し! 職人がいないんじゃあ、誰がリーダーになるのよ。言い出しっぺの私がなるのはごめんだわ。心の奥にひっそりとしまっておこう。
「そうそう。明日から教会の瓦礫を撤去するから、あなたも早起きするのよ」
え、マジで!?
翌朝、私は早起きすると――正確には叩き起こされると――教会の跡地に向かった。はあ、重労働は男だけでやればいいのよ。私みたいなか弱い女にやらせるなんて、とんでもない話だわ。
文句を言いながら瓦礫を撤去していた時だった。地下空間が姿を現したのは。
「おい、これ見ろよ!」
「なんだこりゃ。教会に地下なんてあったか?」
「いや、そんなもの存在すら知らなかった。しかし、だいぶ古そうだな」
神父が独り言を呟きながら近寄る。私もそっと覗いてみたが、その地下への入り口はすごく狭そうだった。
「おい、ジャンヌ。お前なら入れそうだ。さあ、中を見て来い」
はあ? こいつら正気?
「なにか文句あるか?」
この男、ぶん殴ってやりたいわ!
「ジャンヌ、さっさと行きなさい。女性が逆らうなんで、あり得ないわ」
コソコソとお母さんが言う。
そうか、中世じゃあ女に権利はないのね。はいはい、やればいいんでしょ、やれば。私は小さな足がかりにそっと乗りながら地下へ降りていく。どうやら、相当古いらしい。中の壁はもろく、触ったらボロボロと崩れそうだ。崩れるなら、私が無事に外へ出てからにして欲しい。
ようやく床に降り立つと、書棚や机があった。おそらく、過去に教会の下に地下室があったのだろう。こんなところに篭っていたら精神がまいりそう。さっさと地上に戻って報告しようっと。
あれ、この文書だけ他のよりも古そうね。中身は何かしら。うん? 「ローマン・コンクリートの作り方」? ちょっと待ってよ。中世にコンクリートなんてあったの? よくよく読むと「ローマより伝わった古来の製法」と書いてあった。ということは、古代ローマの製法ってことね。
村の家はコンクリート製じゃなかったから、今じゃあ作り手がいなくなった、いわゆるロストテクノロジーみたいなやつね。便利な方法がなくなるなんて、もったいない。あれ、もしかして石造りよりコンクリートの方が丈夫じゃないの? もし、コンクリートで建て直したら? いくら神様でも、そう簡単には壊せないと思う。多分だけど。
私は文書を読み漁ると、いろいろな情報を手に入れた。石造りより耐久性があること。具体的には2000年も持つらしいこと。硬化するのに時間がかかることなど。なるほど、一長一短なわけね。
「おーい、ジャンヌ。とっとと戻ってこーい」
いっけない。だいぶ地下にいたらしい。よし、地上に戻ったら、コンクリートのことを教えよう。教会の一部にローマン・コンクリートを使えば丈夫になるなら、みんな喜ぶに違いない。
「ねえ、これ見てよ! コンクリートの製法だって!」
「おい、ジャンヌ。お前って文字読めたか?」
え、やっちゃった感じ?
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