私、どうすればいいの?

 どうやら、ジャンヌダルクは文字が読めなかったらしい。やらかした。そうか、中世に文字を読める人は限られていたに違いない。さて、どう切り抜けようか。



「あの……実は隠してたの。ほら、文字を読めるなんて言っても、信じてもらえないかと思って」



 かなり無理がある。しかし、これで納得してもらうしかない。



「じゃあ、誰に教わったんだ?」



「……。そうよ、神様! 神様が夢の中で教えてくれたの!」



「なるほど、神様か」



 神様って便利! そうか、これからはなんでも「神様に教わった」で誤魔化そう。そうしよう。



「ねえ、ジャンヌ。せっかく文字が読めるのなら、私や子供たちに教えてくれるかしら」



「もちろんよ、お母さん」



 よし、これでポイントを稼いでおこう。いざという時に役に立つはず。ついでに、近隣の村にも教えにいこうかな。いや、こちらに来てもらって読み書き講座と称してお金をもらおう。なんて、頭がいいんだ!





 いざ、読み書き講座をしてみると、好評で何回もやらされた。だるい。講師は私だけなんだけど。それに「隣村から来た人たちからお金を取るなんて、けしからん」という村長の言葉で私の計画は潰された。まあ、代わりに食べ物とかもらったけどさ。


 



「ジャンヌお姉ちゃん、聞いてる?」



 どうやら、考え込んでいる間に子供達から話しかけられていたらしい。



「あのね、お姉ちゃんのおかげで、私賢くなったの! ありがとう!」



 その子供は無邪気に笑う。たまには、こういうのも悪くはないかもしれない。少し照れくさいが。



 そうだ、読み書き講座で、肝心なローマン・コンクリートの話を忘れていた。古代文書から、材料なんかの知識を得なければ。私はざっと目を通す。材料は石灰に火山灰。砂、水、そして瓦礫。瓦礫!? そうだ、教会の瓦礫を再利用すればいいのだ。これがいわゆるSDGsってやつ? 多分、そうだろう。なんて環境に優しいのだろうか! 私って天才かも。問題は火山灰の調達だ。このあたりに火山灰はない。どうしたものか。



「ジャンヌ、どうした? さっきから古文書と睨めっこしているが」



 それは私を教会の地下へと送り込んだ、まさにその男だった。読み書き講座のおかげか、最近は少しまともになってきた。本当に少しだけど。



「コンクリートを作るのに火山灰が必要なのよ。この辺にそんなものを調達できる場所、ないでしょ?」



「そりゃあ、難しい問題だ。でも、これはどうだ? 隣村付近に火山灰があるんだ。読み書き講座のお礼に持ってきてもらえば、いいんじゃないか?」



 そのアイデア、いただき! たまにはやるじゃん。これで、読み書き講座をやった意味があるわけだ。



「じゃあ、隣村に行ってお願いしてきてよ」



「はあ? 男に命令するなんて、何言ってるんだ?」



 ああ、男尊女卑はまだ解消されないわけね。これは根が深い。



「それ、俺がやるよ」



 そこにいたのは、若い男だった。誰こいつ。



「まさか、俺のこと覚えてないのか? 読み書き講座の時に、熱心に教えてもらったから、覚えてると思ったのに……」



 男はしょぼくれていた。そう言われても、大勢を相手にしていたんだから、覚えてろ、っていう方が無理でしょ。



「俺はアラン。俺が隣村にお願いしてくるよ。それで君の役に立てるんだろ?」



「ええ、まあ」



「よし、話はまとまったな。じゃあ、今から行ってくるよ」



 はあ? 今から? いや、準備できてないでしょ。隣村まで距離がある。ここからじゃあ、夜までに向こうへ着くことは不可能だ。例え、向こうで夕食をご馳走になるとしても、最低限の準備はいる。



「俺、これでも、村で一番足が速いんだぜ! 君のためなら、どんな困難も乗り越えられる!」



 男はウインクをしながら、そう語りかける。あれ、もしかして私に好意を抱いてるの!? いや、まさか中世のフランスで好かれるとは思ってなかった。これ、どうすればいいの? 教えて、神様!

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