「今日クソするときしみるから気をつけな」

 夏休みに入って、カンヂはシイナたちとよく遊びにでるようになった。

 いくらカンヂだからっていつも本を読んでるわけじゃない。

 さそわれればつるむし、みんなが行く所にはついてく。

 ただ家庭の事情でおそくまでは遊べないから、さあここから楽しいぞってあたりで一人ひきかえすこともある。

 そんなときはシイナがスマホでそのあとあったことを教えたりした。

 なんでシイナかって言うと、スマホもってて使い放題できる者がほかにいなかったからだ。

 そんなわけで、カンヂへの電話は大体シイナがかけた。

「でよーずっと行った先に川があったんだよ」

「川?」

 今どき家電いえでんがある実吉家、カンヂはデッカい黒電話で通話している。

「ちっせーけど深さもあって、水もキレーだった」

「ああ、農業用の用水があるあたりか。水門があったろ」

「おーそーそー、でよーハセが、アイツちょっとバカじゃん? 泳ぐとかいいだしてよー」

「ふむ」

 カンヂが気づいたことがある。

 シイナはいつでも誰かに悪態あくたいをついたりきたない言葉を使ったりするが、ふたりっきりになるとそれがへる。

 カンヂもそれをいちいち指摘しないのは、シイナが自分のこと話すのをきらうからだ。

 そのへんがわかるカンヂだから、シイナも心をゆるしたのかもしれない。

「でもんなトコで泳げるわけねーじゃん? 水着もねーし」

 それに胸とかばれるし。

 これはシイナ、言わなかった。

「ふむ。おっと風呂の時間だ。サイコが呼んでる。切るぞ」

「ああ、なんかおまえとネーチャン、フーフみてーのな」

 上手いことを言う。カンヂは受話器を置いたあと、そう思った。




 夏休み中、班メンバーで三回カンヂんちに集まった。

 うち二回は班内の役割分担とかそういう本当に必要なことをやった。

 そのたびサイコにつかまって、みんな夕食を食べて帰った。

 もう一回は、盆祭りにそろっていこうって滑川セラの提案で集まった。

 その日男子は先に実吉家に来てダベって昼メシ食ってサイコとポーカーした。

 このサイコがやたらめったら強くて女子連中がやってきた午後四時には、カンヂ以外はサイフの中身スッカラカンにされてた。

「お邪魔しまーす。わーなんでみんな寝てんの?」

「おっせーよ」

「おれらサイコさんにムチャクチャやられた」

「女子は浴衣か。みんなよくにあってるぞ」

 女家族の多いカンヂが自然にほめる。

「ありがとー。実吉君、なんのゲームやってるの?」

「ポーカーだ。ほかの連中はサイコに一文なしにされた」

「どいつもこいつも勝負のアヤも分からんアホウばかりだ。カモりついでにケツの毛までひんむいてやった。今日クソするときしみるから気をつけな」

 サイコの下品な言葉づかいに女子がうれしそうな悲鳴をあげる。

「ストップだカンヂ」

「うむ。フルハウスだ」

「クソったれめ。ストレートだ。何でストレートがフルハウスに負けるんだ? こっちのが難易度が高いのにおかしいじゃないか」

能書のうがきはいいサイコ、それがルールだ。三百円」

 小銭をやり取りするようすを、滑川セラがのぞきこむ。

「わあ、本当にお金かけてるんだ。じゃあみんな一文なしって……」

「マジ。ジュースも買えねえ。屋台でててもイミねえ。なーナメおごってよ」

「やあよ。お金足りないもん」

 サイコが卓上のトランプを片して立ちあがる。

「チンチンどもこっちに来い。おまえらにも浴衣だしてやる」

「えー、いいよメンドクセー」

「文句いうヤツ殴るぞ」

 サイコが怖いのでみんなしたがう。

「おいチビ、おまえもこい」

 一人だけすわったままのシイナも呼びつけられたが、ムッツリだまって立とうとしない。

「おい、耳ないのか」

「サイコ、シイナはいいんだ」

 カンヂが真剣な顔で言うと、サイコは「わかった」と言って引っこんだ。

 ハセとクッシーとカンヂは奥の間で浴衣の着つけをしてもらい、「こずかいだ。もってけ」とポチ袋をわたされた。

「スゲー。一杯入ってる」

「取られたより多くね?」

 あり金ガネスッてやる気ゼロだった二人がみるみる元気をとりもどす。

「カンヂ。これはあの小僧コゾウっこの分だ」

 シイナの分もわたされる。

「あいつ、女なのか」

 耳元でささやかれ、カンヂはギョッとサイコを見た。

 「そうだ」とバラすわけにもいかず、さりとてウソをつくのも心ぐるしい。

「さあ。おれはしらん」

 だからカンヂは返事をはぐらかした。

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