ウキウキでノリノリな滑川セラが目の前で舞いおどると、カンヂがめずしくイヤそうな顔をした

「サイコさん、スッゲいい人なー」

「でも最初ビビんなかった? トランプムッチャクチャつえーんだ。おれ金なくなったときヤバかったもん」

「ハセ半泣きだった。つーか泣いてた」

「うっせ」

 祭りのやっている寺まで道々歩きながら、男子たちが大声で話している。

 そのうしろをシイナがぽつんと歩く。

 浴衣の集団の中で、ざっくりしたシャツと半ズボン姿は目だってしかたない。

 手にはあのポチ袋。

 男子の中では一人だけ柄がかわいらしい。

 それがどうも気に食わなかったらしい。

「シイナ」

 カンヂがその横にならび、

「おまえの体のこと、サイコが感づいたようだ」

「……カンヂが言ったんじゃねえの?」

「言うわけないだろう。おれは約束は絶対にやぶらない。おれは知らないといっておいたが、サイコはかしこいしするどいからそのうちばれると思う」

「おれ、もうおまえの家にいけねーな」

「サイコは話せばわかってくれるぞ」

「だれだろうとこれ以上知られんのヤだ」

「そうか分かった。じゃあこのハナシはおしまいだ。一応サイコには口どめしとく」

「二人でなんの話してんの?」

 後ろから滑川サラが割りこんだ。

「べつに。なにハシャイでんのナメ」

「だってお祭りじゃない! ねえ、みんなで射的しようよ! 男の子もサイコさんにおこづかいもらったんでしょ?」

「なんで射的?」

「だってみんなで勝負できるじゃない! 一番はビリの人に命令できるって、どう?」

「べつに、やってもイイけど」

「じゃ、決まり! あー、シイナ君のポチ袋わたしのといっしょー。おそろじゃーん?」

 シイナはにぎってた手ごとそいつをポケットにかくした。

 一行は出店のならんでる広場につくと、フラッペとイカ焼きとタコ焼きとワタ菓子を買って分けあい、ときどき盆おどりにまじりながらリンゴ飴とフランクフルトとシシカバブをかじり、クジ引きをしてから射的をした。

 けっこう盛りあがって一位は滑川セラ。

 さすが言いだしっぺだけあって上手かった。

 ドン尻はカンヂ。

「これ、銃身曲がってないか?」

「曲がってても負けは負けー。ビリは実吉君でーす。さあなに買ってもらおっかなー。それともなんかバツゲームやっちゃう?」

 ウキウキでノリノリな滑川セラが目の前で舞いおどると、カンヂがめずしくイヤそうな顔をした。

「なあ、カンヂおまえわざと負けたんじゃないのか?」

 シイナがムッツリいうとカンヂはもっとムッツリ顔で

「そんなわけないだろう」

とかえした。


 けっきょくその場で滑川セラはなにも言いつけず、命令は後日もちこしとなった。

 一団は広場をでて最初の道で女子とわかれ、男子はカンヂの家で普段着ふだんぎに着替えてからおのおの家路についた。

「なあカンヂおれんちきてよ」

「もうおそいからダメだ」

「たのむよ。家すぐそこだから」

 声があんまり切実だったから、カンヂはしょうがなしにシイナについてった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る