「じゃあさわっていいか」「はあ? いーわけないだろ」

「ないやつなんていないだろ。ないと息できない」

「ばっ、そうじゃねえっての。胸、ふくらんでんだっつの」

 カンヂがシイナを見る。

 ずいぶん闇にはなれたが、表情がわかるほどには見えてない。

「それは病気じゃないんだな?」

「ああ。なんか、ムツカシー名前の体質だって。なんか、副腎皮質がどーのって、意味わかんねー。オンナのホルモン出てんだって。キモチわりいよな」

「べつに気持ちわるくない」

「だってオンナみてーなんだぜ?」

「女が気持ちわるいのか? おまえ、滑川をかわいいっていってたじゃないか」

「あいつホンモノのオンナだもん。胸ふくらむのトーゼンだしカンケーねえじゃん」

「ふむ」

 カンヂがナルホドとうなずいた。

「さっぱりわからん」

 ハナシの通じないカンヂに心底あきれて、シイナがなが~くでっかいため息をつく。

 そっからむっつりとだまりこみ、

「なあ、」

「うん」

「見てみるか」

 カンヂがまたシイナを見た。

 いや、さっきからずっとシイナを見てはいた。

 闇をさぐるように、なにかを考えながら。

 カンヂがなにも言わないので、シイナもだまってすそをまくる。

「わかるか?」

「いや。ドア開けて光をいれていいか」

「バカ。ぜってーすんな」

「じゃあさわっていいか」

「はあ? いーわけないだろ」

「見えないうえにさわれないんじゃ、どうなってるのかわからん」

 しょーがねーなー、シイナはつぶやいて舌うちし、

「ちょっとだけだぞ。すぐ手ーひっこめろ」

 シイナが体をこっちにむけた。カンヂの手が腹からじょじょに上へすべってく。

「む」

 やわらかい感触。

 カンヂは一度手を引っこめ自分の胸をさわり、もう一度シイナにふれた。

「本当にふくらんでるな」

「うん」

「サイコよりも小さい」

「ばっ、はなせよ! ああキモチわり。おまえ、姉ちゃんのさわったことあんのか?」

「ああ。前に一度。風呂に入ってて」

「いっしょに風呂入ってんのかよ」

「ああ。おれとサイコがまず入って、チビたち順番に呼んで洗って湯船につけこむ。毎日十人以上だから大変なんだぞ。子供はじっとしてないし」

「おまえの家のがおれよりずっとヘンじゃん。ゼッタイそうだよ」

「そうか?」

「そうだ。ぜってーヘンだ。で、なんつってさわらしてもらったんだ?」

「べつになにも。チビたち洗い終えて最後二人でつかってて、胸って湯にうかぶんだなーって見てたら、『触ってみっか?』って」

「そんでさわったのかよ」

「ああ。おまえより大きかったぞ。安心しろ」

「イミわかんねー。こっからおれもデカくなるかもしれねーじゃん」

「そしたら、もっとこまらないか」

「……そうだな」



 二人が外にでたら、雨はとっくにやんでた。

 きれぎれの雲のうえには太陽と青い空。

「なあカンヂ」

「なんだ」

「おま、今日のゼッタイにバラすなよ」

「ああ」

「ガチで、ぜってーのぜってーな」

「わかった」

「おま、ウソついたらショーチしねえぞ」

「しつこいぞシイナ。おれはこの話をぜったいにだれにも言わない。家族にもクラスメイトにも。約束する」

 シイナはカンヂのうしろを、水たまりをよけながら歩き、

「ぜってーな」

まだ念おしした。

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