「おれたちはウソの家族なんかじゃない」

 夕闇にしずみゆく道を歩みながら、四班の面々は話に花がさいていた。

「愛されてるよねー、実吉君」

 滑川サラが、感きわまっていう。

 見送りに出ていたカンヂは不思議そうにそれを見、

「そうか?」

「そうよ。わたし一杯きかれたもん。サイコさんに、実吉君のこと。多分それききたくて、水仕事手伝わせてくれたんだよ」

「つかナメ、愛してるって」

「ばあか、愛されてるって言ったのよ。ナメって言うな」

「おまえは愛されてないのか?」

 明かりもろくにない田んぼのあぜ道で、カンヂはバカマジメな顔で問う。

「愛されてないってわけじゃないけど、」

 滑川セラは言葉をにごす。

「あんなに愛されては、ないよ。だって家族みんなが実吉君のこと好きじゃない。お隣の家族も、サナちゃんチョーかわいい」

「サイコさんもチョーキレー、ねー」

「似てないよねー、一人だけすっごい美形」

「おれとは血がつながってないからな。サイコは母さんの連れ子だ。オヤジは再婚してるんだ」

 みんながしんとして足をとめる。

「サイコの前であんまり言うなよ。アイツ気にするんだ」

「ゴメン」

「なにが?」

「なんか、悪いこときいた」

「言ったのはおれだ。それが悪いってのなら、一番悪いのはおれだ」

「だけどそれって、」

 横いりしてシイナ。

「ニセモノの家族ってコトじゃねえ? おまえら、ウソの家族じゃん」

 その言葉がおわるまえに、カンヂがまっすぐシイナにつめよって顔がぶつかりそうになるまでデコをよせる。

「おれたちはウソの家族なんかじゃない。母さんはおれの母親じゃないけどウソの母親じゃない。おれは母さんもサイコも好きだし、みんなそうだ。そもそもホントの家族ってなんだ? 夫婦って他人どうしでなるもんだろう。親と子だけが家族じゃない。トシコさんもシンゴさんもサイコもタカキもサナもみんなおれの家族だ」

 カンヂがにらみつけたままひと息にまくしたてた。

 シイナはその目を見かえせなかった。



 その後も大小ぶつかりあいもあったが、カンヂたちの関係はおおむねいい方に深まっていった。

 険悪に分かれた二人だが、日があけて学校にいったらなにもなかったみたいになってた。

 男子ってのはさわぐだけさわいだら忘れちまうから気楽だ。

 だけどその二人が放課後の湿度計観測を命じられたときは、さすがビミョーだった。

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