その日はやけに空が晴れていて、実吉宅ではなんか面白いことが起こるような予感がふしぎとあった
六年生の一学期の終わりごろ、班のメンツの結束が深まった。
そのあたりになると修学旅行や合唱コンクール、運動会などイベントが重なる関係で、どうしても放課後に集まる機会がふえる。
授業時間以外に顔をあわせると、自然と親密になる。
その日はやけに空が晴れていて、開けた土地にぽつんと立つ実吉宅ではなんか面白いことが起こるような予感がふしぎとあった。
「おじゃーしやーっす。うっわーカンヂ、お前のウチでっけえー」
玄関に入るなりシイナが声をあげた。広い三和土たたきに音がコダマする。へっほ~、奇声をはっして反響を楽しんでいるのはハセだ。
「適当にあがってくれ。今飲み物をもってくる」
カンヂが台所にきえる。
ここが集合場所になったのは班メンバー全員の家にほど近く、しかも自宅が広いと聞いたからだ。
大きいからって別にカンヂん家が特別裕福ってわけじゃなくて、ただ田んぼのど真ん中にある旧家ってのはでっかくて当たり前、入り口も勝手口も縁側もいつだって全開っていう、いかにもな田舎の家なだけで。
「おじゃましまーす」
男女計七名の集団はどやどや居間に移動し、でっかいちゃぶ台についてカンヂが出した麦茶を口にする。
「おまえンち、マジ広れーな」
シイナはしきりに感心している。
「家族がおおいからな。これぐらいないとこまる」
「弟とかいんの?」
「姉と弟一人ずつと妹五人。それとはなれにイトコ五人」
「てかおま、それ多すぎだろ、イモート五人とかありえねえし」
「えー実吉くんお姉さんと妹いるんだ。いいなー」
子供だけでも合わせて十三人、両親に祖父祖母に曾祖母を合わせれば二十人って大所帯だ、そこまでおおかったら笑わないほうがウソだろ。
「それで、夏季休暇だ」
半月先にせまった夏休みを、誰もが心まちにしていた。
「夏休み? が、どうかしたの?」
滑川セラがカンヂにきく。
女子の中では彼女だけが男子に質問する。
他の子たちはお互い目配せしてはにかむばかりで主張ひとつせず、意見は彼女にまかせっきりだった。
「休みの期間中、連絡はおれからすればいいのか?」
「それでいいじゃない? ねえ長谷部君?」
「ああー、ん。だな」
班長のハセがテキトーにうなずく。
席順で指名されただけで、リーダーシップを発揮したことはない。
じゃあどうやって議題を決定していたかっていうと、
「なら今後もおれの家が集合場所、ということでいいな」
カンヂが意見を手ばやくまとめて、
「それでいいと思う。いいよね? うんきまり」
副班長の滑川セラが採決する。
これがおきまりになっていた。
「じゃあみんな、この紙に連絡先の番号を書いておいてくれ。自分のスマホならなおいい」
それから何やかやしているうちに、カンヂの姉のサイコが帰宅し、制服姿のまま居間をのぞきこんだ。
「なんだ。にぎやかだな」
ちゃっす、こんちわー、みたいな気のぬけたアイサツをかえすシイナとかハセとか。女子は全員、息をのんで目を丸くしている。
サイコが台所にきえると、
「ええ、今のが人実吉君のお姉さんなの」
「うわ、チョーキレー。お姉さんとマッタク似てなくない?」
歓声ってよりも悲鳴に近い。
この日一言も言葉を発しなかった内村ジュリまで、怒涛の圧でカンヂにせまる。
「でもちょっと共通点あるかも。そういえばカンヂ君、意外とハンサム……じゃないけど」
滑川セラがフォローしようとして尻すぼみになると、
「持ちあげてから落とすって、ナメさんおもろすぎーアクシツー」
「ケッキョクほめてねー」
男子がツッコむ。
「うっさいなー、ナメっていうな」
「ナメはナメじゃん」
今度はシイナと滑川セラがつっつきあう。
「カンヂ、そろそろチビたち迎えに行ってくれ」
「わかった」
サイコがエプロンかぶって戻ってきて命令すると、カンヂは立ちあがってさっさと玄関にいった。
他の者たちは、どうしたものかと顔を見あわせていると、
「おまえらガキだからどうせヒマだろう。夕飯食ってけ」
とてもカンヂの姉とは思えない、やたら乱暴な言葉づかいだ。
「てかおれんち晩飯あるし」
「なー」
「うるせえ口答えすんな。わたしの作った飯が食えないってのなら、ぶん殴ってでも食わす」
サイコが本気で殴りそうだったのでだれもそれ以上文句は言えず、素直にそれぞれの家へ電話した。
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