第16話

なんだか知らない間に地元で輝夜ブームが巻き起こっている。


実廉は一人暮らしのアパートに帰ってから、地元のニュースをネットで探しては読むようになった。


右も左も分からなかった彼女が、いつの間にか周りを巻き込んで町の活性化に貢献していた。


「あいつ社長になってんじゃん……」


中卒だとダメなのかと質問されたことを思い出した。


駄目じゃない事を、自ら証明しやがった。皮肉な笑いが漏れた。


輝夜は正月に書初め大会で優勝したらしく、その時にもらったらしい米三十キロと地酒を実家に持ってきた。未成年だから飲めないのでと言って輝夜が持ってきたと母が言っていた。


すき焼きのお礼らしい。


俺のはないのか?俺には礼はないのかと少し腹が立った。

新しくスマホを手に入れたからと、莉子とラインを交換したみたいだ。

その他にも新しくできた友達たちともラインを交換しているらしい。商工会の人や、商店街の店主たちもその仲間に入っていた。


勿論、俺が一番最初に輝夜とラインを交換していたが、なんとなく用事もないのにラインするのに躊躇してしまい、こっちに帰ってきてから連絡を取っていなかった。


俺は何をしているのかと言えば、大学へ行ってバイトに行って。友達と朝まで酒を飲んでくだらない話をする。ゲームばかりして一日過ごしていることもある。まったく面白くもなんともない日常を過ごしていた。


輝夜の目覚ましい活躍をみると、自分がものすごくちっぽけな人間に思えてくる。



ブルルルルルーーブルルルルルーー

スマホが振動した。


「か、輝夜!」


実廉は急いで電話に出た。


「お、おう。どうした」


できるだけ平静を装い、今、輝夜のことを考えていたことを悟られないように電話に出た。


「実廉、こっちに帰ってくるのか?今は春休みだと莉子が言っていた」


「いや……お前が何か用事があるなら、帰ってやらなくもないが」


なぜか偉そうな返事をしてしまう。


「いや、帰ろうと思っていた。うん。春は休みが長いから、ってか何かあった?」


「ちょっと困ったことになっている。うちに警察が来た」


警察?ってまさか徳島の件か。


すっかり忘れていたが、輝夜は人身売買でオークションにかけられた被害者である。

記憶をなくしているせいで、当時の事は何も覚えていないだろうから、警察に事情を聴かれても、何も話ができないだろう。

それを彼女はちゃんと警察の人に伝えられるだろうか。そして彼女の話を信じてもらえるだろうか。



「今からそっちに帰るから。心配するな俺が帰るまで警察に呼ばれても一人で行くなよ」


実廉は電話を切ると急いで帰る準備をした。

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