第15話

さびれた商店街に、一風変わった若い娘が彗星のごとく現れた。

竹林に住んでいた昨年亡くなった老婆の孫である。


愛らしい容姿に、変わった話し方。若者とは思えない古風ないでたち。

彼女の個性は商店街のうるさい老人たちを魅了した。


輝夜に、ある種のカリスマ性を感じ取った倉持は、この子を町の宣伝に使わずしてどうすると思った。ラッキーなことに彼女は今仕事をしていないという。


その後、商店街の店主や商工会のメンバーを集め、輝夜を交えて、何日も特産品についての話し合いが行われた。



「何か売れる物を思いつかない?この町らしい、特産品なるような物」


「竹の籠はどうだ?媼が作ったものが沢山家にある」


彼女の家の納屋に細めのひごを使い丁寧に編みこんだ竹製の籠がたくさんあった。

お婆さんが生前、この竹藪でやることと言ったら、竹を利用し竹製品を制作する事くらいだっただろう。


「こんな古臭い物売れるわけがないぞ」

「丈夫だし、なかなかいい物ではあるけどね」


商店街の重鎮たちは、あまりいい顔をしなかった。


検索してみると、この竹で編まれた籠は、弁当箱として高値でネット販売されている。

試しに数個売りに出して様子を見る事になった。


「五百円とか千円じゃなくて、ガンと五千円とかで売る。中途半端な値段は嫌だ」


「輝夜ちゃん、それはちょっと高すぎじゃない?」


半信半疑で、輝夜の設定した金額で売ってみることにした。


まさかの即日完売だった。


しなやかで丈夫な竹のお弁当箱は軽くて通気性がよく、内部が蒸れにくいので蓋をあける時まで、食べ物を美味しく保存することができる。

輝夜の祖母が作ったものは、他の竹の弁当箱よりも網目が細かく、丁寧な作りだった。


「輝夜ちゃん。新しくこれで商売をしないか?仕事になるし、うまくいけば多くの収益を得ることができる」


倉持は顔を輝かせて輝夜にそう提案した。


竹の弁当箱は良い商売になる。ネットで売ればコストも抑えられる。全国の人にこの町の事を知ってもらえる良い機会になる。

輝夜も儲かり町も活気づく。どちらにとってもwinwinだ。


結果、輝夜の竹製品を地元の特産品として売り出す準備が始まった。


空いている店舗を利用し、竹籠編み教室を開催した。勿論、講師は輝夜だ。

何より輝夜は吸収力が凄いので一夜にして名人級のかご編み技術を身に付けた。

輝夜が竹ひごの編み方を皆に教えた。

竹の籠作りは地域の老人会の人たちを中心に、暇なお年寄りが趣味として楽しんだ。

良い品が出来上がれば、こちらが買い取る方式をとると、お小遣い稼ぎにマンパワーが炸裂した。


市役所の広報課や観光課の人も交えて、話は大きいものとなり、輝夜の事業に予算が付いた。

広報課の協力のもと、インターネットで町の特産品として広告を打ち、ホームページの写真のモデルは輝夜が務めた。



出来上がった沢山の籠を『輝夜印の竹製品』として贈答用の箱の代わりに使用すると、籠の付加価値も加わり、菓子や、そば、酒が倍の値段で売れるようになった。商店街の店主たちも大喜びだ。


あれよあれよと売れに売れ、商店街も活気づき、輝夜印の竹製品は商として成功した。

輝夜は『株式会社輝夜印』の社長となった。



そんなこんなで輝夜は忙しく働き、あっという間に季節は春になろうとしていた。

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