第13話
実廉と別れてから、輝夜はとりあえず、食糧を買うために商店街へ向かった。
そしてやらなければならない事を考えた。
とにもかくにもスマホを買いたい。ずっとタブレットを借りたままではいけないし、パソコンも購入したい。順番的には、食糧調達、防犯対策、スマホだな。
換金した金は八十三万円あった。今回の徳島旅行で十万円ほど使った。残りのお金は実廉が返してくれた。
彼は自分の食費などは自分の財布から出しているようだった。ちゃんと通帳に入れとけと言われた。
あの大きさの金で八十万ということは、今、輝夜が持っている金を換金すればかなりの額になる。
ただ、大きな金額の換金は目立つし、下手したら捕まっちゃうかもしれない。
どこで手に入れたのかとか聞かれたら、なんと答えればいいのか分からない。竹の中から出てきましたとは言えないだろう。拾得物横領罪で捕まったら洒落にならない。
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「違う、キウイの上に白餡を乗せるんじゃなくて、白餡で包むんだ」
「なんで餡子で包まにゃいかん。水っぽくなるじゃろう」
「つべこべ言わずに包め」
「はいはい。ほんで白玉粉の生地で包むんだな」
「輝夜ちゃん、今、白餡ないから粒餡でいいかい」
「せめてこし餡にして、いや、もう粒餡でいい」
輝夜が老舗の和菓子屋で無理やりフルーツ大福を作らせていたら、そこに雄太がやってきた。
「おい輝夜、じいちゃんに無茶させるなよ。変わらぬ味が自慢の店なんだから」
雄太はこの和菓子屋のじいさんの孫だった。
「ほら、これ食べてみて」
輝夜は雄太にさっき作ったイチゴ粒餡大福と、キウイ粒餡大福を試食させた。
「うわっ!なにこれ旨い」
「旨いだろ」
「いやー新メニューじゃな。輝夜の大福じゃ。売り出そう」
「おい、じいちゃん老舗の味はいいのかよ」
「んなもん、今と昔じゃ、今の小豆の方が旨いにきまっとるじゃろう。品種改良されて豆も味が良くなってる。変わらぬ味が一番まずい事なんて何十年も前から知ってるわい」
そんなこんなで和菓子屋の前にちょっとした人だかりができていた。
「輝夜ちゃーーーーん!」
人ごみをかき分けて山田石材店の石造が走ってくる。
「久しぶりだな石造」
「いやいや家に行ったけど、ここんとこ留守だったみたいだし心配してたんだ」
「ちょっと徳島に行っていた」
「なんで徳島?ま、いいけど。新しくうちのポスター出来上がったから持って行こうと思ってさ」
そう言うとポスターを輝夜の前に差し出した。
これは山田に頼まれて写真のモデルになったものだった。輝夜が白装束で頭に三角の白い布をつけ墓石の前で笑っている写真だ『ご先祖様も大喜び』と書いてある。
それがポスターになったらしい。輝夜はいろいろ世話になった石造の為にモデルを引き受けていた。
まぁ、よく分からないが、これで満足してくれるなら良いだろう。
「なんかすごく好評でさ、このポスター欲しさに墓石売れまくってんだよ」
お礼に何かしたいと石造がニコニコしながら言ってきた。
「それなら、うちの防犯対策をしてほしい」
詳しく話をしてみると、知り合いの工務店に頼んですぐにでも、鍵とセンサーライトを取り付けてくれると話が進んだ。
雨戸もついでに見てくれるらしい。
請求はしてくれてかまわないと言ったが、お礼だからいらないと石造に断られた。
そんなこんなで話はとんとん拍子に、そのまま工務店の叔父さんの車に乗って輝夜は家に戻ってきた。
「いつの間に工務店に知り合いができたんだ」
家に帰って家の電話で、実廉に防犯対策が何とかなりそうだと報告した。
専門家の方が安心だし、それはよかったなと言ってくれた。
二時に実廉は輝夜を迎えに来てくれた。家の車を借りたらしくこれで電気屋巡りができる。
目当ての物を購入し、ネット回線の工事の日を決めた。
「やればできるものだなぁ」
実廉は自分に感心していた。年末だとはいえ、今日が平日だったことが良かったようだ。
「食料を買いに行けなかったから、今うちには大福しかない」
「ははは、そうだな。ついでに大型ショッピングモールによるか。車があるうちに、大きい物とか重い物とか買っといたら?」
「わかった」
「俺、布団買うわ」
どうも媼の使っていた布団で眠るのが嫌だったらしい実廉は、自分専用に布団を買うと言い出した。
それならちょっと良い物を買って、今後は輝夜が使えばいい。あの家は隙間風も多く入る。ここの冬がどれくらい寒いのか分からないが、越冬のための準備は必要だろう。
弾力性のあるマットレスと羽毛布団を買う事にした。
「実廉?実廉じゃん。こっちに帰ってきてたの?うわっ、ひっさしぶり」
実廉の友達らしい者たちに声をかけられた。
高校の同級生だという。
「お前、いつの間にこんなに可愛い彼女作ってんの?まじ、可愛すぎ。聞いてないし」
「うっせ、邪魔すんなよ」
実廉はなぜか照れている。彼女ではないのだが、そこを否定しないのか、と思っていると、連れの中にいた女の子が輝夜に話しかけてきた。
「実廉君の彼女さんですか?私高校の時に実廉君と同じ部活だったんです。山本美湖って言います」
急に自己紹介されたので輝夜は少し驚いた。久しぶりに会ったのであれば実廉と話をすればいいのに、わざわざ輝夜に話しかけてくるとは思わなかった。
「あ、輝夜と申す」
「え、なに?申す?武士なの、うけるぅぅぅ!ちょ、マジ顔面国宝過ぎて好(ハオ)可愛いんだけど。えっとごめんね。緊張してるのかな?確かに若そうだよね。純欲メイク透明感エグち、もしかしてJKだったりする?」
もしや外国人かもしれない。輝夜には理解不能な話し言葉だ。試しに英語で話してみる。
「I can't understand the Japanese you speak.Your skin gets dry and the powder foundation flakes off」
ガハハハっと、実廉の友人が笑い出した。
『私はあなたの日本語が理解できません』
と輝夜は言った。
メイクの話をしているようだったので。
『乾燥してあなたの肌は粉が吹いている』
とも付け足した。
「え、なに?なに、彼女帰国子女なの?棚やん彼女なんて言ったの」
さっきの女の子が大笑いしている棚やんという友人に聞いた。
「輝夜、ストップ。アホだけど、悪い奴らじゃないから」
実廉は輝夜の英語を理解したらしい。
「面白いな輝夜ちゃん。初めまして、俺、棚田です。実廉とは腐れ縁ってか、大学も一緒で仲良くしてます。よろしくね」
輝夜は、実廉は同級生たちとで楽しんだほうが良さそうな空気を読んだ。
空気は吸うものであり、読むものではないが。
日本語の進化も止まらないようだ。輝夜はまた新しく言葉を覚えなければと思った。
「積もる話もあるだろうから、実廉後は友達と遊ぶか?」
「いや、遊ばねーし。」
また連絡するわと友人たちに言って、実廉は輝夜を連れてショッピングモールを後にした。
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