第2話

どれくらい歩いたんだろう。


気がつけば山の中に入っていた。周りは竹林。月が明るいからとはいえ、夜なので辺りは暗い。かろうじて月に照らされて道が少し見えるくらい。


しばらく行くと、明かりがともっている家を発見した。


道に迷ったふりをして、とりあえずあそこに行ってみようと決心する。


トントン、トントン……


「どちらさま?」



四十代くらいのおばさんが出てきた。中には五人ほど人がいた。



「まさか……まさか、あなた 輝夜かぐやちゃん?」


名前を呼ばれて驚いた。私を知ってる?


「輝夜ちゃんよね。変わってない。昔のまんまだ!」


何故か分からないが、輝夜ちゃんで合ってる気がする。まぁ、名前は合っている。


頷いた。とにかくでもいいから暖かい場所と食べ物が欲しかった。



そのおばさんに家に入れてもらい、中の様子を窺った。


「良かった、良かった。知らせを聞いたのよね。もう、どうしようかと思って話し合っていたとこなのよ」


「いやーほんとに良かった」


そこにいた民たちは皆一応に安心した様子だった。

話を聞いていると、この家に一人暮らしをしていたお婆さんが、どうも一週間前に亡くなったという事だった。


私は前世の記憶があるせいか、おうなが死んでしまったんだと思い、悲しくて涙を流した。

あんなに優しかった媼が死んでしまったなんて……

翁ももういないみたいだった。


そして媼の生前の写真という物を見せてもらった。

しかしその写真の中のお婆さんは、竹取の翁の妻、媼ではない全くの別人だった。


だけど今更涙は引っ込められない。仕方なく俯いたままその写真をじっと見つめた。

行く場所がない訳だから、とにかく話に流されておこうと、周りの人の説明に耳を傾けた。



以前、媼の娘さんが、子供を連れてここに帰ってきたことがあるらしい。三か月ほど滞在して、また出ていったみたいだ。お孫さんにあたる輝夜ちゃんは当時三歳。


それが十五年ほど前になると言っていたので現在十八歳。だとしたら私は今十八歳という事になるのでそういう事にしておいた。


娘さんとは連絡が取れず、病気でそのまま媼は死んでしまったらしい。それが一週間前の事。


この家や土地、それに家財道具や預貯金、預貯金とはお金の事らしい。大した額ではないが葬式代を差し引いて、輝夜に渡されることになった。


媼親子は仲が悪かったみたいで、娘の事は『勘当した』と、生前媼は言っていたらしい。

けれど、孫の輝夜のことは会えるものなら会いたいと、その当時撮影した写真をずっと大切にしていたという。


ボロボロになった孫の写真を『変わってない。昔のまんまだ』と先ほど輝夜に言ったおばさんが見せてくれた。


なんてことだろう!全く似ていない。どこが昔のまんまなんだ?


その写真には、目がぎょろりと大きく、栄養が行き届いていないように痩せていて、頬も下ぶくれではない、全く可愛くない幼児が写っていた。

 


食べるのに苦労していたのだろうか?幼いのに気の毒だ。

けれど……もしかして、今、私はこんな顔をしているのだろうか?そういえば自分の顔を確認していない。


輝夜は急いで鏡の前へ行った。



平安時代の美人の条件、額が広い、目が細く一重で切れ長、口が小さくおちょぼ口、頬がふっくらとして下ぶくれ。


鏡に映った輝夜は、美人の条件をまったく満たしていなかった。


輝夜はショックのあまりその場に崩れ落ちた。



『容姿の清らかで美しいことはこの世にたぐいなく、家の中は暗い所がなく光に満ちています』


翁は輝夜の事をそう言っていた。私が、私が可愛くないはずがないのに。



最終手段は結婚を申し込んできた殿方たちに世話になればいいと思っていたのに……こんなに不細工じゃ……無理!


誰も輝夜に結婚の申し込みなんてしてこないだろう。

希望が失われた。


輝夜は絶望の淵に立たされた。



輝夜が一言も発していないにも関わらず、あれよあれよと話が進み、その夜、輝夜はこの家を住居にすることとなったのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る