将来の話とフィニアスの猛攻撃
食事中の会話は今後の進路の話になった。まだ一年とはいえ、授業が選択制なので基本将来を見据えた授業の取り方となる。
「クリフォードは騎士団だろ? 第一を目指すのか?」
「卒業したての新人に第一はまず無理だ。まあ受けるけどね。たぶんそこで力量を測られて振り分けられる。四に入れたらラッキーだね」
「要人警護を目指すのですね」
「うん。魔物討伐もやるけどね、目標はそっちだな。デクランは? 魔塔主目指す? それとも王宮魔術師?」
あまりひけらかさないが、デクランは座学の成績も良いし、実技も素晴らしい。闇泉まではまだでも、かなりの闇魔術を習得しつつある。
「魔力量も増えてきましたよね。そろそろ次の属性が発現するのではありません?」
リリアンヌが聞くと、はっと顔を上げる。そして口元を少しほころばせた。
「実は冬に風が増えた」
「まあ! おめでとうございます」
皆も口々にデクランを言祝いだ。
「リリアンヌ嬢のおかげだな。魔力の練り方のヒントがすごくためになったし、クラブのおかげで暴走を心配せずに魔力を思い切り練ることができる」
「こちらは毎度ヒヤヒヤするがな。リリアンヌといい、デクランといい」
メイナードがまたもや眉間にしわを寄せている。今度はこめかみを押さえていた。頭痛持ちさん!
「魔塔主もいいかもしれないが、それよりも実は……教師を考えている」
「えっ!?」
「それは私も初耳だな」
メイナードが驚いていた。
「いえ、そうですね、人にはあまり……いや、まったく言ってなかったので」
「わたくし、デクランさんは研究職がいいのかと思っていました」
「魔導具の研究が面白くて仕方ないのは確かだよ。出された課題をこなす技術は我ながら長けていると思うんだが……発想力ではスカーレット様や魔塔のユールには敵わないと感じることが多い。それ以前に、クラブで他の生徒から座学で質問されたことがあったんだ。それに答えるとき、なんというか、わかりやすく解説することが楽しかったんだ」
これは前回漏れ聞こえることすらしなかった。デクランの望みはそこにあったのか。
「相手が理解した瞬間が見えるのも楽しかった」
「じゃあ魔導具の教師?」
「いや、フォレスト先生がいるのにその座を狙う気はないよ」
「二年の闇の魔術の教師がかなり高齢だ。お前が卒業するころには教壇を退く頃だろう。本気ならば後押しすることも出来る」
「そのときはよろしくお願いします」
やりたいことを目指せるようになるのは喜ばしい。教師は別に貴族として蔑まれる役職ではない。爵位を保持したまま教師をしている者もたくさんいる。それにこの学園に限っては栄誉ある職でもあった。
「そんな話全然聞いてなかったよ、デクラン。何かきっかけがあったのか? その教えたとき以外で」
クリフォードは、わりと物静かで人を寄せ付けないデクランともよく話していた。本当に初耳だったのだろう。
「それが……」
ちらりと私を見る。
え、何? 何かあったっけ??
「冬、城下町の魔石屋を見て回っていたんだ。何か掘り出し物はないかと思ってね。そしたらそこにマーガレットさんが現れた。あまり無下に扱うのもできずに結局昼食を一緒に摂ることになったんだ」
「あー!! あのときの!!」
「やはりあれはリリアンヌ嬢だよな。男性と――」
「誰?」
横から! 横から急に飛んでくる質問!! フィニアスの圧!
「く、クリフォードさんと小物屋で会った日ですよ! 兄です。長兄と一緒にお買い物をしてたんですっ!!」
なぜこんなにも必死にいいわけをしなければならないのか。
「それよりも、マーガレットさんとのご飯!」
私の様子にイライジャがニヤニヤしていた。
「彼女がね、言ったんだ。悩んでることがあるだろうと。なんならそれに自分を利用してくれても構わないと」
「……どういうことですか?」
「あえて明言しないんだ。やたらと機嫌良く、自分は味方だとか、やりたいことはやればよいのだ、ってね。抽象的な話ばかりでなんと言っていいかわからなかったんだが、でも言われているうちに、やりたいことはやるべきだと思えてきた。彼女は不思議な人だね」
私にとっては不可解な人だ。
「父にはまだ話していないので秘密で頼む」
「なるべく早く話してくれ。あの人はなんというか、恐ろしいほど察しがいい」
魔塔でも接触があるメイナードが言う。
「わかっています。二年になる前にはと思っています。教師になっても魔導具の相談には乗っていただけますか?」
「そこは同僚としての相談だな」
メイナードの返答に、今まで見たことないほどいい笑顔を見せるデクランだった。
昼食後も採取だ。
「風も闇もって、デクランさん、採取特化型ではありませんかっ!」
「君の基準はおかしい」
「闇、絶対闇を手に入れる。心を闇に染めれば闇が発現するのかしら」
採取の間周囲を警戒してくれる風魔術師がいるのは本当に心強い。火で周囲の警戒できるものを一時期探したのだが、基本傷つけて察知するみたいなもので、範囲も狭い。素早い魔物に対して有効なものだった。風の探索とは別だ。
羨ましがりながらもそれらの恩恵を受けて採取を続け、そろそろ帰宅準備に取りかかる。かなり遠出しているので馬を全力で駆ることになった。
「つまり、競争です」
「優勝者は?」
「違います。ちょうど六名ですし、上位三人の馬代を下位三人が持ちます」
「ほう、それは負けられないな、なんとしてでも一位を獲ろう」
なんか、メイナードが本気になった。
「この石が地面に落ちたら開始だ」
近くの握りこぶし大の石を見せる。大きく弧を描いて地面に着くときを待つ。
今だ、と思った瞬間突然目の前が真っ暗になった。
「甘いな!」
前方にあるメイナードの声が、馬の足音が遠ざかっていく。
「なに、え、何なのです!?」
やがてそれが薄れてくる頃には、メイナードはずっと先を走っていた。
「闇煙なんて、それが教師のすることですか!?」
叫びながらも追いかけ始めるが、この絶対的な差を埋めるのはなかなか難しかった。
そしてみんな馬を操るのが上手い。一番体重の軽い私が有利かと思っていたら、みんな結構やるのだ。デクランも何気に速かった。
ぶっちぎっていったメイナードには追いつけず、その後をクリフォードとデクラン、イライジャが追う。
「ふぃ、フィニアスさんも行っていいんですよっ!」
「私は、リリアンヌ嬢と並んでこうやって走っているのが楽しい」
合わせる余裕があるということではないか!
途中だいぶ王都近くのところで、帰路につく徒歩御一行に会う。一瞬で追い抜くと、何人かが恨めしそうにこちらを見上げていた。他はほとんどが下を向いてげんなりしている。
「リリアンヌ嬢、覚えてる?」
「何でしょう?」
ここまで来ると私も諦めて少しスピードを落としていた。待ちぼうけしているがいい!
「ペア戦優勝したらお願いを聞いてくれるっていうやつ」
「お、覚えてますよ!」
「じゃあ、次の陽の日は空けておいて」
え? と返す前にフィニアスが続けた。
「城下をデートしよ」
イライジャから猛反対を受けました。
「デートなら貴族として行ってくれよ! その方が警護がしやすい!」
「やだ。収穫祭の時の格好で行く」
「やだって、おまえ、もおおおお!!」
私はそのやりとりを呆然と眺めている。
まさかの
「なに、結局そういうこと?」
「おめでとうリリアンヌ嬢」
「ちがっ、これは、約束したからです!」
クリフォードとデクランに言われて私は慌てて否定する。
「ありがとう。ペア戦優勝のご褒美なんだ」
フィニアスは涼しげに流していた。
「別にいいだろう学生の間は。私は何十人とも遊んだ」
ええええええ!? ここでそんな話出さないでください!! デクランが目を剥いている。そりゃみんなびっくりだよ。
「駄目。絶対に行く」
さらに続けようとするイライジャをぴしゃりと封じた。
口を開けては閉じを繰り返すが、やがては肩を落とした。主の命令には逆らえないようだ。
「デートのルートを事前提出」
「んー、一応考えてはいるがリリアンヌ嬢がどこか行きたくなったらそちらに行く」
「ルートを変えることはしないと誓います」
毒殺事件の実行犯とともに、それを命じた人物は特定したとこっそり聞いている。ただ、手は出せないとも。つまり、身辺が不穏なことには変わりないのだ。
そんな不安を見透かされたのか、フィニアスがにこりと笑った。
「大丈夫。イライジャたち優秀だから」
あ、あ、あ、とうめき声が聞こえる。大変だな、従者って。
「もうそろそろあちらも決着をつけるつもりなんだ。せっかくの学園生活楽しみたいだろう? フォレスト先生ほどではなくてもね」
「別に構わんだろ。婚約者がいる相手に手を出しているわけでもなし」
「婚約者候補に名乗りあげてますしね、私は」
「たかが城下に遊びに行くくらい何の問題もない」
なんなのこの先生! 急にどうした。
「スカーレットが心配していたぞ」
「スカーレット様が!? というか、先生スカーレット様と何の話をしているのですか……」
「あれはよくしゃべるぞ? 最近の話題のほとんどはそなたとフィニアスのことだ」
魔導具の話をしているのではないのか!?
「もっと建設的な話をしてください……」
「じゃあ、今のうちにリリアンヌ嬢が行きたい場所を教えて」
「そ、そういうんでなくて!」
「それなら――」
なぜかクリフォードがデートにいい場所を挙げ出して、話題の波がそちらへ持って行かれた。
「コリンナ嬢からおすすめはすでにいただいている」
「あ、そうなんだ」
「あとはリリアンヌ嬢の同室のアンジェラ嬢とか、スカーレット様と一緒にいつもいる令嬢たちからもたくさん」
皆さん何をしてらっしゃるの……。
「とりあえず観劇にはまた一緒に行きたいから、あの座長さんにチケットはとってもらった」
「また?」
クリフォードが首を傾げる。
よ、余計なところに気付きおって……!
「冬に、リリアンヌ嬢のお義姉様にチケットいただいたから一緒に行ったんだ」
「なーんだ、もう全然他の奴ら脈なしじゃん」
じゃん! じゃないんですよ。
「わ、わたくしにはわたくしなりの計画が……」
「スカーレット様の利になる文官の第二夫人あたりに収まりたいんだって?」
フィニアスの笑みが深い。
「な、なぜそれを!!」
「ラングウェル公爵様から聞いた」
あの激甘くそ親父なにしゃべってるの!?
「……もう諦めた方がいいぞ」
メイナードがぼそりとつぶやいた。
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