文化祭後日談
表彰式が行なわれ、そのまま文化祭の閉会式となる。その後は片付けだ。
また、後日投票があり、優秀な発表はこれまた学園長から賞状が贈られる。
まあ、その投票がなくとも我らの発表は大盛況でした。詳しい魔導具の設計図と、領内設置の計画は、今後ラングウェル公爵領がバックについて、クロフォード子爵領が中心となり、王城で相談に乗ることになった。
お父様が過労死してしまうと嘆いていた。本当はラングウェル公爵領中心にしたかったのだが、断られたそうだ。
私が国王陛下の前であそこまで語ったのにその功績をうばいとることはできないとの話だ。魔導具をさらに発展開発したのはスカーレット様とデクランを中心とした魔導具開発チームなので別によかったのだが、認めてはもらえなかった。
忙しいとは言え、かなり多くの貴族と顔つなぎができたとほくほくだ。
ついでに、婚約希望のお話がたくさん来た。
「断るのにも一苦労だ」
「お父様、頑張ってくださいませ!」
今日は陽の日。スカーレット様はお城へ。そして私もお城へ。
ラングウェル伯爵の馬車がやってきて、連れ去られました。制服からドレスに衣装チェンジの時間がかかるので先触れはあったが、できれば前日から連絡をいただきたい。そしてスカーレット様は王妃教育へ。私は城の一室。平民衛生化計画の話をきちんと発案者である私も把握しておくように指導されている。
美味しい紅茶と茶菓子を前に、ラングウェル公爵とお父様、そして私が向き合った。
というか、お父様が来てるのなら私を連れて行って欲しかった。なぜラングウェル公爵家の馬車に乗せられたのだ。
学園で開かれたことにより、国のほとんどの領地がこの話を知ることとなってはいるが、知らない領地が不利益を被ることがないよう文書にして各地に配ることとなったらしい。
「で、だ。神殿にもこの話が回ってな、聖女が石鹸を広めるという話について相談したいらしいぞ」
「相談ですか? ああ、無料で配る石鹸のお金や現物の出所とかでしょうか? 石鹸……て確か冬に領地でも作っていたような?」
「そうだな。家畜を絞める時に一緒に作るな。あとははフェンダールの樹液を煮詰める方法もある。なかなか急に増やせる物ではないが、王都にはそれなりに在庫があるので冬前になったら配って周知することは可能だ」
「どうしても流行り風邪は冬に多いですしね」
「……なら、今神殿とお話しする必要はないのでは?」
紅茶を飲みながらのお父様の言葉に私も激しく同意だ。
神殿は面倒だ。なんたってあの聖女を擁する団体なのだから。
そしてこの国の神殿は、精霊神を信仰しているだけにとどまらず、政治にも口を出したくなる面倒な組織だった。
「わたくしもできうる限り神殿と関わりを持ちたくありません!」
「「ならなぜあのとき神殿の話を出したのだ」」
えーん! マーガレットにぎゃふんって言わせたかっただけです。
彼女から出る案を奪ってやりたかっただけだ。思いつきでやるとこんな風に破綻するのだと心底反省いたしました。
「手っ取り早く市井に広める一番の手段をぱっと思いついてしまいました」
ラングウェル公爵がため息をつく。
「口に出す前に相談しなさい。特に貴族や神殿に関わることにはな」
「申し訳ございません……」
「その後の聖女との仲はどうだ?」
「ギルベルト殿下とのですか?」
良好だと思いますが。
「違う、君と聖女の仲だ」
「さあ、よくはないと思いますよ。目の前にいても平然と無視してきますし」
「スカーレットが心配している。彼女の周囲にはたくさんの信奉者がいるのだろう?」
「うーん……、たいしたことのない者たちばかりですけれど。伯爵クラスの子息令嬢はあまり周りにおりませんし」
「だが数は時に権力に勝る。気をつけなさい」
ここらではっきり聞いておきたいことがあった。
「貴族の間での聖女の評判はどうなのですか?」
「……なんとも言いがたい。先日のそなたとイライジャ殿の傷を一瞬で癒やした手腕はかなり評価されている。だが、学園での殿下に対しての振る舞いも問題となっている。やがては政治が絡んでくる」
「トルセイ男爵は暗躍するタイプなのですね」
「立場が低い者がとる方法は限られている」
スカーレット様と、ラングウェル公爵家と敵対する派閥に取り入ること。
「第二王子の婚約者の座についたのもラングウェル公爵家の手のものだ。面白くはなかろう」
「一番面白くないのはウォルポート家でしょうね」
第二王子の婚約者を擁していた公爵家だ。
「トルセイ男爵の周りを使いの者がうろちょろしているそうだ」
「マーガレットさんを養女にでも迎え入れるおつもりかしら」
「そうなったら全面戦争だな」
やめて欲しいなあ。
マーガレット・ウォルポートか。それもちょっと面白いが、ラングウェル公爵の怒りは爆発しない方が良いと思う。
「彼女の振る舞いは貴族として下の下ですよ」
多分カーテシーもお粗末そうだ。歩き方がなっていないのだ。貴族令嬢のそれではない。今までどんな教育を受けていたのか理解に苦しむ。男爵令嬢でも、普通に礼法はきちんとしている令嬢はいくらでもいるのだ。
「マーガレットさんは、本当に貴族令嬢なのですか?」
「何を、言っているのだ?」
以前お兄様に話した、例の懸念だ。それをここで言う気はないが、彼女の素性は一度調べていただきたい。
「なんというか、貴族としてやってはならないことを平気でやってしまう感性が、本当に分からないのです。いっそ平民であると言われたほうがまだ理解できます」
私の言葉にラングウェル公爵とお父様が顔色を変えた。
「まさかな……」
「少し調べさせましょう」
あー、二人にはそっちのほうが受け入れやすかったのか。
たまたま聖属性を持った平民を見出したので、拾い上げて、稀代の聖女として祭り上げるためにまずは男爵令嬢として殿下に近づくと。
その過程で他国の諜報員だとわかればまた話は変わるだろう。
皆は彼女がアーノルドたちやオズワルド殿下まで従えていたことを知らないのだから。
「リリアンヌは、少し身辺にも気を配りなさい」
「私の身辺ですか?」
「いっそのことフィニアス殿と婚約したら――」
「「それはダメですね」」
「なぜ二人揃って……まあいい。とにかく、身の周りに気をつけること。あまり男性と二人きりにならないこと」
「……たぶん私の方が強いですよ」
身体強化、最近また力を入れてます。やっぱり物理は強い! 最後にものを言うのは拳ですよ。
「何もなくても何かあったとして話を進める輩が出てくるのだよ。相手がウォルポートの傘下だと面倒だ」
「わかりました」
その後は上映場に常にラングウェル家の席は作れないかと聞かれ、クロフォード家の席は作ってあるのでそちらを利用するのは構わないと言う話をしたり、化粧品の新作一式を準備するお話をした。
次の陽の日は、やっと春の素材採取だ。集めるものなどの最終チェックを今週しなければ。
そして、フィニアスは誘わないと絶対後で言われるから誘うしかない。
朝食はいつもの席で自然と普段のメンバーが揃う。なぜか最近私の隣を空けて令嬢たちが座るのだ。
なぜかじゃないのはもちろんわかっておりますが。
「おはようリリアンヌ嬢、皆さんおはよう」
「おはようございます、フィニアス様」
皆が口々に挨拶をする。イライジャは向かいの席だ。
こ、ここでお誘いするのはとても辛い。が、そうは言ってられない。申請は早めにしなければならないのだから。
「フィニアスさんは次の陽の日は何か用はございますか?」
「あったとしてもリリアンヌ嬢以上に優先すべきことはないね。何? デートのお誘い?」
「春の素材採取のお誘いですよ」
「ああ! もちろん行くよ」
「素材採取なら俺も行くね〜」
イライジャの名乗りにフィニアスは少し嫌そうな顔をした。
「邪魔なんだが?」
「いやいやいや! さすがに王都から出るのに一人では行かせられないから!」
「ちなみにフォレスト先生も誘います」
闇泉狙いです。あと、大人がいたほうが絶対いい。神殿のなんだかんだを聞いていると教師のような立場の人間に着いてきていただきたい。
「まあ、秋の素材採取のときと同じようになるのかな」
今度はさすがに聖女は来ないだろう。馬を飛ばしまくる楽しい素材採取の予定だ。
「わたくしの方でもピックアップしていますが、スカーレット様が欲しい素材があったらおっしゃってくださいね!」
「ありがとう、リリアンヌ。フォレスト先生のところには放課後に行くの? わたくしも一緒に行って必要素材の相談をするわね」
スカーレット様はまたなにか新しい魔導具を考えているらしく、素材の選定に余念がない。
メイナードからは快く了承いただいた、というか
行く予定がもともとあったそうだ。薬草学のワイヤード先生から授業で使う必要素材の採取を頼まれていたという。
「先日の試験で、リリアンヌの素材がかなり傷んでいたのだろう?」
ああ、ボロネロ草のことか。
「あいいったものは、学園の薬草園にあるものや、業者から購入する。試験に使ったのは業者に頼んだもので、それはとある男爵令嬢つながりのところだったのだが……ワイヤード先生がかなりご立腹でね。業者を丸ごと切った。新しいところと契約を結んではいるが、少し足りないらしくてな」
「ならもう少し人手が必要ですか?」
「デクランは連れて行こう」
まあそこまでは予定通り。
私が取りまとめて申請書を書いて提出した。
春の素材採取は秋と同じ場所だ。採れるものが少し変わるくらい。馬の予約もして、楽しみにし陽の日を待つ日々だ。
そしてなにやら聖女サマに呼び出されました。
今回はなんだろう?
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