やっぱり闇魔術最強です!欲しい!
相変わらずの塩対応にも関わらず、マーガレットは諦めることなくイライジャに話しかけている。
その後ろには彼女の信奉者がぞろぞろと続いた。
私はイライジャの班員の話を聞いていた。やはり、闇狼の数はかなり多く、一年生にはきつかろうと言うことだ。
「イライジャさんがいてくれたから、うちの班はなんとかなっていたけど、他の班は心配だね」
探索はイライジャの班の風魔術師がしてくれたので、グレイスもなんとか歩いていた。それでも魔力切れが近く息が粗い。
「地路便利ですね。私も覚えようと思います」
地魔術師の言葉に他の班員も頷いた。道がかなりきつかったらしい。
「私は記念参加のつもりだったので、初期地点のマーキングしかしてません……」
光魔術師の女子生徒が項垂れている。
まあ、それが普通だ。
行軍の基礎すら教えてもらっていない。
そして無事に森中央まで到達する。
「無事だったか。
メイナードだ。
「あんなに出るなんて聞いていません!」
マーガレットが涙目で言うと、取り巻きも口々に恐怖を吐露する。
「今騎士団が森の中を探索中だ。帰りは一緒に帰るから皆はここで待機だ」
「スカーレット様は!?」
「フィニアス様は!?」
私たちのハモリにメイナードは苦笑した後顔を引き締める。
「ここにたどり着いたのは君たちが一番だ」
全属性が確班にいるようにはなっていたが、就学度はそれぞれだ。
探索は風の基礎中の基礎なので大丈夫だとは思うが、それができたとしても地面の危うさ、個人の体力の違い。ただ歩いて来るだけのつもりだった生徒が突然の戦闘にどれだけ対応できるか。
「スカーレット様のところに――」
「フィニアス様のところに――」
「却下だ! といいたいところだが、イライジャはそれが任務だからな」
「班をなぜ別にしたのか理解に苦しみます」
ふぁ……イライジャ怒ってる。
「しかし、場所はわからないだろ?」
「わかりますよ。そういった魔導具を付けていただいております。発動するまではわかりませんけれど」
「なら行きなさい。ポーションを持っていけ」
「先生わたくしもスカーレット様のもとに!!」
「まさか君も……」
「気合で探します!!」
「却下だ!!」
「うう……スカーレット様、フィニアスさんと出発点が近い班だったので、イライジャさんと行く許可をくだ――」
「「却下だ!」」
「イライジャさん、せめて付与させてください」
私が杖を取り出すと、イライジャは剣を抜いた。
「【火付与】」
さらに杖を振るう。
「何? 式がかなり大きいけど……」
「とっても複雑なんですよ」
一の式、二の式と式を重ねる。全部で五つ書いて最後に少し傾けていたものを揃える。
「【火纏】」
イライジャの周りが赤々と輝き出す。
「イライジャさんを悪意を持つ者から守る火です。くれぐれも生徒に触れないように……イライジャさん、どちらの方向ですか? ある程度まで地面を均します」
「助かる、ありがとう!」
地路が敷かれた先へ、赤いイライジャが消えていった。
ふぅと一息つくと、こちらを睨んでいるメイナードと目が合う。
「何でしょう?」
「五重は学園の図書館にはないはずだが?」
「ふふ、魔塔の図書館で見つけました」
呆れ顔をされてしまったが、正直一通りの火は一応魔力が低くて使えなくとも覚えていたのだ。今は土と、さらに高位の火魔術だ。
「まあ、ブレスレットは外していただいて正解でした」
基本練りを制限するものだが、それだけではないようで、どうも魔力を動かすときにも制限があるようだった。外しているので五重もなかなかスムーズに描けたと思う。
「何かお手伝いさせてください」
でないと、スカーレット様の御身が心配で居ても立ってもいられなくなる。
「今のところは魔導具で動きを見張っているだけだからな」
そう、なんだか不思議な、仰々しい魔導具が展開されている。私も初めて見るものだった。
つまり、前回はこれを見ていない。
広場の中央に立っているメイナードの前には、左右の地面に置かれた丸いものから発せられる光で、ちょうど先生の腰のあたりにこのあたりの地図が浮かび上がっていた。
その地図にはいくつもの光が瞬いている。
星の色が赤と黄色の二種類だ。
「緊急用の魔導具が位置の確認にもなっている」
これは、腕につけるので、だから私のブレスレットも外すこととなった。
「赤いのが結界が発動されているものだ」
「結構ありますね」
「
「先生は教師になられて何年くらいなのですか?」
「もうすぐ十年だな」
「それだけ勤めてらっしゃって初めての出来事がよりによって今日なのですね」
私の質問に黙り込む。
やっぱり異常事態なのだ。
「あの大きな
私の言葉にメイナードがピタリと動きを止めた。
「大きな?」
「はい。それまでに対面してた
「それを何故早く言わない!」
メイナードは腰に下げていた魔導具らしきものを掴むと、それに向かって声を上げた。
「実習は中止だ。倍化が起こっている! 早急に学生を集めよ! 一班は三班は二班の元へ。方位――」
班をまとめて移動を指示するメイナードの焦った様子に、スカーレット様の姿が脳裏でちらつく。
「リリアンヌ! おまえは待機だ。皆ここに来る。絶対に動くな」
やりそうなことを見透かされてむっと黙った。
さらに、先ほど先生が使った魔導具から次々に声が聞こえる。
『五、六、七班合流完了。中央に向かいます』
『十一、十二、十三班合流完了』
私はスカーレット様の二班の声が飛んで来ないかと、じっと聞き入る。
と、イライジャの班の風魔術師が立ち上がった。
「先生! 大型の魔獣が一体こちらに向かってきます。あちらの方から。距離がぐんぐん縮まっています」
「先生、倍化というのは……」
「魔の森には魔素という魔物の力の源となるものがあるのは知っているだろう? それを取り込んで魔物は強くなる。人を襲うのは血肉目的だがな。魔物を実際に強化するのは魔素だ。そしてそれをより取り込んで一定以上の基準を満たすと倍化が起こる。形や強さを強化するんだ。より強い魔物が生まれる。そしてこの魔素だが、特に魔の森の魔素は周期的に多く生み出される。まさか一日でそこまで変化があるとは思いもしなかった。倍化している個体がいるのなら、騎士団や上級生の実習で見つかっているはずだ。そして、倍化の個体が生まれるほどなら、他の普通個体の魔物も普段より早く湧く」
風魔術師が焦ったようにメイナードを見る。
「先生、もう来ます!」
その言葉とともに、開けたこの場に先ほど私が対面したものよりさらに大きな
「【闇茨】」
低く通るその声とともに、木々の陰から鋭い棘を持つ闇のツタが飛び出す。
闇狼の怒りの雄叫びに、生徒たちは耳を塞いだ。
「【闇泉】」
闇狼の真下に暗がりが広がる。そして茨たちによって引きずり込まれた。
闇泉は生き物ならその命を奪うといっていた。効率良すぎだろう。それぞれの班の闇魔術師がキラキラした目でメイナードを見ている。
わかる。
めちゃくちゃわかるぞ!! 私も闇が欲しい!!
「すまないが定期的に探索を頼む。魔力が少なくなったら教えてくれ」
やがて騎士団と教師に集められた生徒が集まってきた。
「スカーレット様!!」
そのお姿を見つけて私は全力で駆け寄る。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫よ。リリアンヌも平気そうね」
「危なかったところをイライジャさんに助けていただきました。あ、でも、キャロラインさんが、光魔術の反射を覚えてくださっていたので初撃は防げていたと思います」
「反射は便利ね」
「申し訳ございません。反射くらい覚えてくればよかったです」
「気にしないで。こんなに魔獣が出るなんてみんな思ってなかったわよ」
「そうです。記念実習と思っていたらこんな目に遭って大変でしたね」
スカーレット様の班の光魔術師がかなり落ち込んでいた。
正直対応できている方がすごいのだ。文官目指している生徒なんかはこれでトラウマになったりしなければ良いが。
「リリアンヌ嬢!! これって解けるの!?」
赤き衣を纏いしイライジャである。
「あ、解けますよ。フィニアス様もご無事でよかったです」
「様、はやめてね、リリアンヌ嬢。イライジャがとても強くて助かったよ」
私は杖を取り出すと式を解除する。付与と違ってこれは解除用の式もっあった。時間経過でも消えるが。
こうして、魔力切れ近くなった生徒はいたものの、なんとか怪我人を出さずに無事帰還することができた。
後日、魔物学の先生とメイナードが嬉々として捉えた魔物を解体したと聞いた。
他の魔の森では倍化や魔素増大は見られなかったとのことで、学園に隣接している魔の森限定で魔素増大が起こったと、少し不穏な空気が見られた。連日騎士団や魔塔が森に入り調査しているという。
お遊びで参加した生徒たちは、傾向が完全に二つに分かれた。
もう二度とこのような実技は受けないという者と、自分に出来る、自分が扱え役に立つことの出来る魔術式を必死に覚える者だ。光魔術師のキャロラインは人目を忍んで何度か私に使い勝手の良い、補助としても優秀な魔術式を聞いてきたが、知っている範囲以上はやはり属性の教師につくことを勧めた。とはいえ、一重、二重くらいまでは覚えられるものは覚えておいた方が実戦で使える。あの場でもう一度反射をかけることができたくらいに、現場で動ける人なので応援はしておいた。
マーガレットで少し気になるのは、魔王の復活が近いなどと馬鹿げた妄想を話しているらしい、というところだ。これは彼女のとりまきであるキャロラインから聞いたことなので本当なのだろう。どういったつもりで話しているのか謎だった。
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