魔力練り練りクラブ発足
少しこちらでも聖女周りを調べてみようとグスマン伯爵が言った。
彼にもこの聖女は異常なものに映ったのだろう。
記憶媒体は預けることにした。内部に入ってしまえばセキュリティ甘々な学園よりも魔塔の方が保管には適しているだろう。
その後は待望の魔力練りをさせてもらい、やり方がさらにヤバイことになってるを貴族的な遠隔表現でネチネチと言われた。
週に一度だから上振れも上振れギリギリをガツガツいかねば足りない!
帰りはグスマン伯爵に送ってもらい、夕食前にすぐ行動だ!
「ウェセト先生! お願いします!!」
私はいかに魔力を増やし、属性を増やしたいか。この先スカーレット様のおそばに仕え、その身を守っていきたいかを力説した。
「その割には、剣術の授業は受けていないようですが……」
「人には向き不向きがあります」
うん、私だって剣術学ぼうとはした。が、ドレスを着たまま剣術は難しくて、体術に方向を変えたのだ。
お茶会などでも側にいてスカーレット様を守りたい。
というか、剣術からっきしでした。直接拳で殴るほうが良い。なので身体強化も訓練している。
「道具を使った武術は苦手みたいです」
「……それで、わたくしに頼んであとはどなたに頼むつもりなのですか?」
話が早い!
「体術のモレルア先生と、一年の地属性の先生ガノルバ先生にもお願いしようと思っています!」
「つまり、合計四人……夕食後としても、週の半数以上……」
「本当は月の日から土の日まで週六が良いのですけれど」
「週六……」
先生方は頭痛持ちが多いな。頭に手を当てて悩ましそうにしている。
「一時間後、またわたくしの部屋にいらっしゃい。少し相談をします」
夕食にはスカーレット様も帰宅なさっていた。
「今日もお疲れ様でした。カタリーナさんも前回よりは顔色が良さそうです」
「今日は久しぶりの乗馬で、とても、楽しかったのです」
「オズモンド殿下もいらっしゃったしね」
カタリーナが少し顔を赤くする。
ここの二人の仲はかなり順調そうだ。喜ばしいかぎり。
反対に、最近ではすっかりギルベルト殿下はマーガレットとその取り巻きたちと一緒にいる。わざと時間をずらすなどして、スカーレット様と過ごすのが当然の時間を作らないようにしていた。
さらに、聖女を囲む会などといった名前のサロンと称して、談話室の一つを占拠しているそうだ。
これはアンジェラとユージンからの情報だった。
こんな状態になるのは、二年生になってからのはずだったのに。事態が加速している。
アイネアスやコリンナなどの、スカーレット派と呼ばれる伯爵、子爵令嬢はこの状況をゆゆしきことと意見をすると息巻いていたが、私が止めた。
何か意見するならば衆目の下でなければまたでっち上げられる。呼び出してなど絶対にしてはならない。
試験が終われば冬休みだ。皆実家に帰る。男爵令嬢と王太子殿下が会える行事などないのだから、自然と距離も空くだろう。そう言うと、皆は少しは納得したようで、彼女たちへ向ける敵意も和らいだ。
まあ、もっともっと仲良くなってくれた方がよいのだが。
さすがにケルピーあたりの話が王の耳にも届いて、スカーレット様大好きの陛下と妃陛下に伝わるだろうから、対処されると思う。
あとはマーガレットがどれだけ頑張って聖女の権力を振りかざすかだ。
私の予想が当たっていれば、彼女は何がなんでもギルベルト殿下に近づくはずだ。
どんな手を使ってでも王太子の婚約者の立場をもぎ取りにくるはずだ。
私の予想が当たっていれば。
「リリアンヌ!」
向かいに座るスカーレット様の声にはっと顔を上げる。
「リリアンヌさん、よろしいですか?」
ウェセト先生だ。
「あ、はい! 何でしょう?」
母よりも年上であろう教師は呆れ顔ではぁと息をついた。
「貴女は食事をしながらねむっているのですか? 手と口だけは規則的に動いていてなかなかに不気味でしたよ」
「ふふ、リリアンヌの悪い癖ですわ。深く考えているときはいつもこうです」
「たいした集中力ですね。食事はもう終わっているようですし、スカーレットさんもご一緒についていらして」
「スカーレット様もですか?」
「従者のしでかしは主人が責任をとるものでしてよ?」
ええっ!? スカーレット様にご迷惑を掛けるのは私が一番嫌なことなのだが? 思い当たる節はない。
スカーレット様は私をチラリと見る。怒ってはおらず、どこか楽しそうだった。
「行きますよ、リリアンヌ」
「は、はい」
連れていかれたのは二階の談話室。奇しくも聖女のサロンを開く談話室の隣だ。
そこには、デヴァルー先生だけでなく、フォレスト先生やガノルバ先生など六名の教師陣が勢揃いしている。
スカーレット様がチラリとこちらを見た。
「さて、グスマン伯爵様にそそのかされたリリアンヌさんが、わたくしにも魔力練りの監督を依頼して来ました。デヴァルー先生の寿命を日々縮めていると言われている、えらく思い切りの良い魔力練りだとか」
またもやスカーレット様にチラリと見られる。
「リリアンヌさんにブレスレットをさせたのは、目の届かないところで魔力練りをして事故にならないように。魔力量が増えれば属性が増やせることもあるということが公になって事故が頻発する可能性を防ぐためでもありました。が、後者は学生の間に周知されつつあるようです。そして先週生徒の魔力暴走により先生方が呼ばれることが五回もありました」
それは知らなかった。
というか、多属性の話はフォレスト先生があの場で説明をしたが、私はそれ以降は話題にあげていない。
スカーレット様も驚いていた。
「積極的に周知しているのは、C組の生徒ですね。よくよく聞いてみればマーガレットさんのご学友から広まったようです。魔力量の増加はたしかに今後を考えれば必要なものですが、目の届かないところで無理をされるのはとても危険です。よって、学長とも話し合い、この談話室を平日の魔力練りクラブということで、解放することにしました。魔力練りはコツをつかめば暴走もかなり減らせますから。責任者はあなたです、スカーレットさん」
「ええ!? スカーレット様は何も関係ないではないですか!」
私の訴えに目を細めたデルヴァー先生はじっとこちらを見る。
「ええ、あなたのスカーレット様はあなたの巻き添えです。だから、実際はリリアンヌさんがきちんとこのクラブを管理なさい」
えええ……。
「夕食後、十九時から二十一時の二時間。月の日から土の日、特に学園行事がない時は開催します。常に二名の教師が、すぐ対応できるよう魔導具を準備して部屋に待機します。教室の開け閉めは教師が行いますし、あなただって用事もあるでしょうから、毎日詰める必要はございません。ただ、生徒同士のトラブルなどが無いよう、クラブのルールを決め、周知しなさい。もちろん名簿も作るように。教師からも部屋で倒れられると困るので、魔力練りはできうる限りこちらのクラブに入り行うよう勧めます。そのために、この二階の一番大きな談話室をお貸しするのです」
「お心遣い感謝いたします」
スカーレット様がそう言えば、私も頭を下げるしかない。予定と違う。
が、まあ得られた機会は有効活用だ。
申請書を渡されて、そのままスカーレット様の部屋に呼ばれた。
「リリアンヌ、あなた……」
「スカーレット様にはご迷惑おかけしません。わたくしが完璧に取り仕切ってみせます」
「それは違うわ、リリアンヌ。わたくしが責任者よ。一緒にルールなどは考えましょう」
公爵令嬢の部屋はなんと寝室は別。寝室手前の部屋にテーブルと椅子が四脚と茶箪笥など、話ができるような前室がある。
筆記具を持ってくると申請用紙とは別に紙を出された。
「あなたの考えてるルールをまず書いてみて?」
私の考えていた効率大重視のルールは即座に却下された。
私語厳禁は厳禁だそうだ。
「このクラブには、一人で魔力練りは不安な人たちが来るのに、声掛けができないなんて問題外だわ」
ごもっともです、スカーレット様。
ただ、しっかり集中したいというのもあるので、二十時から二十時半を私語厳禁の集中タイムとした。私はそれ以外の時間は指導に充てろとのことだ。
二時間フルで魔力練りが出来ると思っていたのにとショックを受けた顔をしたが、笑って、許されなかった。
「どうせ最初だけよ、だんだんみんな自分のペースが見えてくるから」
最初に参加する際は名簿に名前とクラスを記すなどのルールを書き、翌日にはウェセト先生に提出した。朝食のときにいつも一緒にいる令嬢たちには話を通しておいたら、クラブの役員も引き受けてくれて、私やスカーレット様がいない時は雑務を引き受けてくれることになった。
そして、これが彼女の怒りを買う。
クラブの発足は速やかに掲示板に告知され、先ずはAクラスの生徒たちが入った。特に魔術師を目指している者は、部屋でやるのもこちらでやるのも変わらないと積極的に参加すると名簿に名前を書く。
ただ、試験が来週に迫っており、本格的に始めるのはその後だ。
初回の話と、会則についてまとめたものを渡して、翌日には五十名ほどが集まっていた。
色々なところで参加希望者がやってくるので、私は朝の食堂にまで名簿を持ち込んでいた。
その食堂でのことだ。
朝はさすがに食事の時間帯が短く、どうしたって殿下やマーガレットととも顔を合わせることとなる。
スカーレット様とマーガレット。二人がそれぞれ別の場所に座っていると、最近はマーガレットの方に座ることの多くなっていたギルベルト殿下が、今日はスカーレット様のテーブルへやってきた。
挨拶もなし。
学園の外では、身分の高いものから話しかけられるまで待つ。なので基本的には学園内でもギルベルト殿下から挨拶がなければ話は始まらない。
だがこの日はいつまで経っても話だそうとしなかった。
「おはようございます、ギルベルト様」
さすがにスカーレット様が挨拶をして反応を待つ。
だがそれでもギルベルト殿下は話し始めようとはしなかった。
「リリアンヌがどうかされましたか?」
そう。私をずっと睨んでいるのだ。
「おはようございます、ギルベルト様」
煽りになるとわかっていてもやめられない。スカーレット様が話し掛けたので不敬ではない。満面の笑顔で挨拶しました。
「よくもぬけぬけと……そなた、マーガレットの悪口を触れ回っているそうだな!」
んんんんん? それは初耳! 是非詳しくしてもらおう。
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