終幕

エピローグ

 その村は満開の花が自慢の村だった。

 遠い昔、アヘンの原材料であるケシの花を栽培して貴族へ流通して問題になっていたが、今では多種多様な花が国内のみならず有名になって貴重な観光資源となっている。

 湖のほとりにある小さな家で一人の老人が子どもに絵本を読み聞かせしていた。

 絵本の題名は『竜が謳うその日まで』だ。

 この村がまだアヘンを作っていた頃と同時期に、一人の竜人と王女が国王に反旗を翻し革命を起こした事実がベースになっているノンフィクション作品である。この国でこの絵本を読んだことは無い人はいないと言っても過言では無い。

 話の内容は囚われてい竜人を王女が助けるところから始まり、様々な場所を旅して、最終的にその時代の国王を殺すのだ。子どもに見せるには少し重すぎる内容だが、ポップな絵柄と勇ましい竜人の姿が描かれているため、一度は竜人になることを夢見てしまうものだ。


 「ねえ、おじいちゃん。もう一回読んで。もう一回読んで」


 子どもはおじいちゃんに頼み込む。おじいちゃんは困ったような頼み込まれて嬉しいような曖昧な表情しながらポリポリと頬を掻いた。


 「しょうがないのお。でも、これが最後じゃぞ。なんせ今日はエミール王国生誕祭じゃ。花火が打ち上がるのも見たいじゃろ?」


 「あーそうだった。それも見たい」


 生誕祭がここまで愛されるのには理由がある。元々、エミール王国での生誕祭は貴族しか集まらないこじんまりとしたものだったが、革命後、初の王となるカリファ・デープラーが、ある街の結婚式に着想を得て改良したとされている。その改良は貴族だけでなく国民全員から支持されてカリファ国王が逝去した今でも伝統行事として残っているのだ。

 おじいちゃんは花火が打ち上がる前に読みあげようと最初のページ急いでをめくる。

 しかし、おじいちゃんの健闘虚しく、読み上げる前に花火は上がり始めた。

 菊や牡丹のベーシックな花火が徐々に打ち上がっては空に舞い散る。

 時が流れるのは早いもので最後のトリを飾る飛遊星花火が七色に輝きながら打ち上がる。その姿はさながら竜の翼のようであった。

 おじいちゃんは子どもを横目で見る。

 子どもは花火以上に目を輝かせて楽しんでいた。


 「おじいちゃん!!花火凄かった今度は王都で見ようね!」


 おじいちゃんは「そうじゃな」と呟いて微笑んでいた。

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竜が謳うその日まで まにょ @chihiro_xyiyu

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