愛する人がいる都

第一話

 腕と足を縛られ目隠しをされてから何時間経ったのだろうか。馬車が揺れる回数を数えるのにも飽きて、イシュタルはの不安だけが募ってしまう。

 この状態にデジャブを感じる。魔女のいた森でもそうだった。

 だが、今回はどうだ。私をエミール王国の王女だと知っていてのこの仕打ちだ。私の処遇は大方予想できる。少なく見積っても、終身刑だろう。

 所詮、私は政治の道具に過ぎなかったのだ。

 急に馬車の揺れが止まる。それと同時に巨大な扉が開く音がする。

 遂に王都へ着いてしまったか。

 そこからの流れは早かった。王都の住民にバレないように人気のない路地の隙間を塗って移動していた。それくらいなら人間の私でもなんとなく理解できる。

 普通なら国王の娘が救出されて帰ってきたら王都総出で祭り騒ぎになるはずだ。むしろ、国民の意識を国王に向けるには最高の手段だろう。

 そうであるはずが、徹底して隠すのは何か理由があるはずだ。

 考えろ、考えるんだ。そして次に繋げるんだ。知識は未来の糧になるんだ。

 私は馬車から降ろされると台車に置かれて運ばれる。

 台車に置かれて数分後、私は目隠しを外された。


 「ここは……」


 王宮の中央に位置する玉座の間だった。

 等間隔に配置された柱はこの部屋の厳かさを表現して、天井に描かれた星座はこの部屋の神秘さを醸し出している。

 天窓から照り輝く陽光は目隠ししていた私に容赦なく突き刺さる。

 馬車で揺られていた時間を鑑みる感じ、少なくとも2、3日は経過しているだろう。


 「カリファよ、よくぞ無事で戻った」


 私が状況の整理を淡々とこなしていると、玉座から声が響いてくる。

 やはり嫌な声だ。まるで、この世を自分かそれ以外かと下を軽蔑してるように聞こえる。

 

 「お父様も健康そのもので何よりです」


 「ふん、建前などこれくらいでよい。カリファに問う。なぜ、あの雑種を逃がした。それにあろうことか、貴様も逃げだした。親に対する恩は無いのか。あんなカムフラージュなど無に等しいのだぞ」


 お父様から建前を言い始めたんだろと言ってやりたいが、お父様を逆上させたくない。キレ始めたら何をしでかすか。従者が半分は残ってくれたら良い方だろう。

 相当鬱憤が溜まっていたようだ。支離滅裂に言いたいことは殴るように問いただしてくる。

 それになんだ。イシュタルが雑種だと?他人をゴミにしか見れないお父様の方が雑種にふさわしい。


 「お言葉ですが、お父様。かの竜人族はイシュタルという名を持った列記とした女性です。雑種というのはのやめていっ………


 「我は質問をしているのだぞ。貴様の御託聞く気にならん」


 お父様はわたしの話を遮って質問の返事を強要させる。

 昔からそうだ。お母様も苦労していた。気に食わないことがあったら、直ぐに私とお母様に向けて、教育という名の暴力を行う。典型的なDV親父だった。家にいる執事や従者は同情するがそれ以上は何もしない。皆お父様が怖いのである。

 たげと、私には今、信頼出来る愛する相棒がいる。ここで食い下がるわけにはいかない。


 「何度でも言わせていただきます。彼女は竜人という人種なんです。私やお父様となんら変わりません。それを化け物だなんて、そんなの間違っています!」


 「物分りのいい年頃になったと思っていたが、ここまで幼稚だったとわ。もう良い。貴様にはこの国の礎となってもらう」


 お父様は玉座の裏に隠していた散弾銃を取り出す。また、銃か。私は銃にでも愛されているのだろうか。正直こっちから願い下げだ。

 それよりも礎だって?私を殺しただけで国が一変するとは思えない。ましてや私は国民から見れば、噂だけの存在だ。


 「よく分かっていないという顔しているな。よかろう、これが最後の教育だ。カリファよ、しかと拝聴せよ」


 「誰がそんなもん聞くか」と、私は小言で悪態を付くが、そんなものはお構い無しとお父様は話を続ける。


 「シナリオはこうだ。国民にすら存在を明かさないほど溺愛していた一人娘が、竜人手によって見るも無惨な姿へと変貌してしまう。それに激昂したメルカトル国王は国の全戦力とこれまでの人脈から築いた他国との支援もあって忌まわしき竜人族を住処ごと殲滅する偉業を成し遂げたのだ。そうすることで、私は国民のみならず、私をコケにする他国からも絶大な支持を得られる。情弱な貴様でも理解できただろ」


 お父様は我ながら脱帽と言わんばかりにドヤ顔をしている。

 はっきり言って、お父様のシナリオは拙いの一言に尽きる。そもそもの話、お父様を嫌う理由は戦績がないのではなく、その高飛車な性格にあるのだ。いくら、話を偽装してもつたとしても何も変わらない。


 「その顔見るに感無量と言ったところか」


 私が黙っていたのを良いことに勝手に解釈し始める。


 「話が長引いてしまったな。それでは、シナリオを開幕させるとしよう」


 「私はイシュタルを信じる。お父様の計画は破綻するのよ」


 「御託はいいと言ってるであろう。とっと血の海に沈むがよい」


 お父様は容赦なく散弾銃を撃ち放つ。

 私は恐怖のあまり、目を瞑ってしまった。脳内にはイシュタルとの思い出が流れ込んでくる。これが走馬灯というのだろう。私の想いもお父様の悪に飲み込まれてしまったのか。

 それにしても、走馬灯が長い。もうとっくに体中に激痛が走っているはず。なぜ何も感じないんだ?

私が戸惑っていると、「ふざけるな!?」というお父様の罵声がよ玉座の間に木霊する。

 私は思わず、目を開ける。

 すると、そこにはが、散弾銃から放たれた弾丸を羽で防いでいた。


 「イシュタル!?」


 「遅くなって申し訳ない。なんかこの光景前にもあったな。でも、今度は負けない」

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