第四話

 

 「お前も、竜人なのか?」


 私は魔女の額を二度見三度見しながら質問した。

 サングリア大陸に存在する人種で額に特徴的な角が生えているの私と同じ竜人、そしてケンタロウスだけだ。

 しかし、ケンタロウスは四足の足を持った生物。目の前にいる魔女が2つの足で堂々と立っているため、ケンタロウスでは無いのは明白だ。

 

  「竜人じゃと?そんなけったいな生物なわけないだろ」


 クスクス笑いながら魔女は否定する。人を小馬鹿にしたような笑い方は何度見てもなれない。今すぐにでも殴りたいくらいだ。

 いや、もう殴ろう。こいつがなにであってもどうでもいい。

 私は右手の拳を握り、今にでも殴らんとするが、


 「待ってイシュタル、あの魔女に敵意は無いみたいだし。目的を聞こうよ」


 カリファは私を静止させた。

 少々もったいないと感じるが冷静さを欠いていたのも事実。素直の言う事を聞くとしよう。


 「ねえ魔女、あなたって一体何者なの?」


 「そうじゃな、お前らって知っておるか?」


 「クダン?見たことも聞いたこともないな。カリファは知っているか?」


 「うん。昔、本で読んだことがある。東の国に伝わるヨウカイで、数日で死んでしまうけど未来を見れる牛だった気がする」


 「正解じゃ。お嬢さんは物知りじゃのう。俺は人間の母とくだんの父の間に産まれたハーフじゃ。だから、高度な未来は見れないが、未来を見て死ぬことも無い」


 魔女は隠していた尻尾をフリフリさせる。

 まさか本当にヨウカイという存在だって言うのか?確かにそれだったら、魔女として崇め祀られてたのも頷ける。


 「じゃあ住民が言ってた天災って?」


 「ああ、俺が見た未来だ。まさか火事の原因が俺の村の者だとは思いもしなかったがじゃな。まあ集落を崩落させてくれたことには感謝しておくとしよう。俺もそろそろ飽きていた頃だったのじゃ」


 「飽きてきた、だと?」


 予言を告げて集落の発展を促した魔女には少しだけ畏敬の念があった。だが、飽きたなんて些細な理由で、今まで共に暮らした人を見殺しにするのは許せない。


 「なんじゃ、不服そうな顔じゃな。言っておくが、俺は未来が見えるだけで未来を変えることは出来ないのじゃ。未来は繰り返す、そして何も変わらないのじゃよ」

 

 「ふざけるな!」

 

 私は思わず飛び出していた。このまま吹き飛ばせば、魔女を火の海へ流せる。

 しかし、カリファはそれすらも静止した。

 

 「ダメだよ。これ以上イシュタルの手を汚して欲しくはない」


 「カリファ……」


 私は魔女を掴む手を離す。

 私はこれまで道徳を踏みつけて人を殺してきた。そんな穢れきった私でもまだ救いの手はあるというのか。

 やはり、カリファは不思議だ。どんなに怒っても、たくさん笑っても満たされない。

 おばさんの言いたかったことはこのことなのか。


 「やはり予言は変わらない」


 「もう魔女に用はない。カリファ行こう」


 私はカリファをおんぶするため、しゃがみ込む。

 魔女の話を聞いている間、ずっと太ももを擦っていた。おそらくまだ傷が痛むのだろう。

 まあ猟銃で撃ち抜かれたのだから仕方がない。

 

 「いや、そこまで手厚くされるのは恥ずかしいいよ」


 「何いってんだ、まだ傷が痛むのだろ。それに崩壊して燃えているこの大木からどうやって降りるつもりだ」


 「……ありがとう」


 カリファはぼそっと呟くと気恥ずかしそうに私の背中に乗った。

 先程の抱きしめられた方が圧倒的に恥ずかしいだろ。

 

 「もう出ていくのか。寂しいのお」


 魔女は角を撫で下ろして明らかに寂しそうな顔する。

 集落のリーダーとして魔女になるのは飽きたが、一人でいるのは寂しいってか。どこまでこの魔女は強欲なんだ。

 それとも私とカリファが仲睦まじくおんぶしているのを見て羨ましがっているのか?それならとことん見せつけてやろう。

 私は魔女に向けて満面の笑みと皮肉を込めて返した。


 「寂しいなら逃げていった住民にでも謝ってこい」


 「ふん、俺の予言は自分自身の周りで起きることしか予言できない。だから、お前たちの行く末が耐え難い絶望に染まることを祈っているよ」


 魔女は背伸びをしてリラックスする。こんなところで座っていて大丈夫か不安になったが、東の空から雨雲が来ているのが見える。

 火事が消化されるところまでお見通しなのかよ。

 祈りと呪いは紙一重なんて言葉があるくらいだ。魔女の言った祈りは間違いなく呪いだろう。

 「そんな絶望なんか押し返してやるよ」と、私は未来を見る予言のヨウカイの予想を否定してやった。

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