魔女のいる森
第一話
どこかの森の、
どこかの集落で、
どこかの魔女が、
ある予言を告げた。
拝聴していた集落の人たちは、ある者は驚きのあまり絶句して体が動かず、ある者は神に助けてもらおうと天を仰いでいる。
この集落での魔女のリーダー的な存在で、魔女の言葉は絶対であった
そのような魔女による君主制に至ったのにはある背景がある。
集落同士の争いが絶えない森無かったある日。未来を予言する魔女が現れた。泥中の蓮のような清らかな魔女は、日常なありきたりな内容から集落の存続に関わることまで言い当て、いつからか森の集落を束ねる君主となったのである。
そんな魔女が告げた預言の内容とは、明日、竜人が森一帯燃やす尽くし集落を滅ぼすというものであった。
この日の夜、集落の重役が会議を急いで執り行った。議題はもちろん預言の対策である。この大陸で竜人の恐ろしさを知らない人はいない。年を重ねた重役ならなおさらだ。
ここで一つ、魔女がある提案を持ちかける。
生贄を捧げよう。
魔女は竜人と一緒に来る女がいると補足する。竜人を捕らえてから、取引を持ちかけるというのだ。
だが、いくら魔女のだした作戦でも、生贄はさすがに抵抗がある。そして、何より作戦に幾つも穴があるように見えるのだ。
しかし、魔女が林檎は青いと言えば、集落の人たちは林檎は青いと信じ込むほどの忠誠心がある。一種の依存にも近いものだ。
魔女が対策の説明をし終えると、重役は何度も首肯して拍手喝采の雨を降らせる。
そして、運命を変えようと動き出した。
私たちが進んだ森は、森というより雑木林と例える方が正しいと思えた。
それに、次の目的地に続く道の見た目は必要最低限舗装されている。しかし、性能面での舗装の仕方は一級品であった。地面には土砂災害に対策して、表層の下に路盤が積められている。
この先にいる舗装工は相当優秀なのだろう。
「なあ、カリファ。この先に何があるんだ?」
「もう少し進むとね、魔女が築き上げた集落があるの。しかもなんとね、居住地が全てツリーハウスで出来ているの」
カリファは空を見上げてウキウキしている。
魔女なんてだいそれた名前を呼称されている人がまだいるなんてな。
サングリア王国の魔女とは物語に登場するような魔法を使う魅力的なものとは違う。天命を受けて予言を国民へ告げる人物を指す。私が生まれるよりも前の昔、それはそれは国民からは敬われ、王国の議会にも参加できる権力者であった。
しかし、その権力に憧れて、自らを魔女と名乗る女が後を絶たなくなり、魔女という存在は政界から追放されて自然と風化していった。
未だに魔女と名乗るとは余程の物好きか、予言に絶対の自信でもあるのだろうか?
「今回はその魔女さんに用事でもあるのか?」
「ううん、今回ここに寄るのに興味以外の他意はないよ。たまたま逃げた先にあるから行ってみようと思っただけ」
カリファを一点の曇りもない澄んだ声で返す。
どうやら本当に気になっただけみたいだ。
まあ私も魔女とやらの素性に興味があるし、反発する道理はない。
今はこの森の神秘的な光景を眺めて王国軍でも忘れて心を奪われておくとしよう。
そう私は気を楽にして歩いていた時、事件は起きた。
「結構歩いた気もするが、集落なんてどこにある……」
カリファの姿が、ない!?
姿どころかいた気配すら感じられない。
恐るべきなのは何も感じなかったことだ。竜人の耳すら持ってしても悲鳴から攫われる音まで全てが聞こえなかった。
私は辺りを見回すが、攫った人影は何処にもない。
まさか、竜人を超える人種がこの森にいるというのか。それとも、まさかこれが魔女の真の力なのか。
ひとまず、カリファの言っていた集落を目指そう。
私は足早で森の入り組んだ道を突き進んだ。
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