第四話
次に目が覚めると窓から朝日が照らしていた。横にはまだよだれを垂らして眠るカリファの姿がある。
おばさんの家に到着したまでの記憶はあるがその後がどうも曖昧だ。
「やっと目が覚めたかい?随分気持ちよさそうに寝ていたね」
私がベットから降りると、音を聞きつけてかおばさんが寝室へと入ってくる。
「そんなに眠っていたのか?昨日からこの家に入ってからの記憶が曖昧で」
「無理もないよ。家に入ったかと思えば、ぐったりと倒れちゃっててっきり死んだかと思っちゃったよ」
あっはっはと笑いながら私の肩をポンポンと叩くがこっちからしたら笑いことじゃない。倒れるなんて緊急事態だろ。ただ、角と翼をおばさんに見られなかったのは不幸中の幸いか。
朝ということはそろそろフレイが来る頃か。私の人生が左右するターニングポイントだ。今のうちに身構えておこう。
「それにしても、この馥郁な香りはなんなんだ?」
私は起きた時から気になっていた疑問をぶつける。
鼻を喜ばせる芳醇な香りがキッチンにとどまらず、私たちがいる寝室まで届いているのだ。
「あー朝ご飯にスープを作ったんだ。昨日の屋台ほどじゃないが料理には自信があるんだ。ぜひ期待して待っててな」
「本当か、スープはわたしの大好物だ。楽しみに待ってるよ」
ドンドンドンッ!!!
私の言葉が終わると同時に玄関口を叩く人が現れた。
おばさんが返事をする間もなく、玄関の扉が開く。
「イシュタル!カリファ!不味いことになった」
扉を叩いていた正体はフレイだった。額には大量の汗が流れており、文字通り緊急事態なのは火を見るよりも明らかだった。
まさか、婚約者が早速不倫をしたのか!?なんて妄想をしたが、縁起の悪いしボケるのは心の中に閉まっておこう。
「フレイ、何があったんだ」
「街の入り口に王国軍が集結していた。このままだとあなたたちが捕まるのは時間の問題だよ」
「嘘だろ………」
「嘘なんかついている場合じゃない。早く決めな、私と一緒にサリオンへ行くか、カリファと一緒に旅を続けるか」
「私は………」
サリオンに行って匿ってもらうのが今持てる最善の策だ。しかし、もしも私がサリオンに脱国したらカリファはどうなる?父親のいる王都へ帰るのか?否、どんな処罰が待っているかは想像するだけで身の毛もよだつ。
もう、覚悟を決めるしかないのか。
「私はカリファと一緒に旅を続けるよ」
「正気か!サリオンに行けばもう危険な目に遭わなくて済むんだぞ」
「最初から狂っているんだよ。それに私は決意したの。この国の王、メルカトルを殺すって。それに私は気づいたの」
「気づいたって何がだ?」
「フレイたちを見てるとね、私もカリファのことが頭の中に浮かんでくるの。好きなのかなんてまだ分からない。でも、厳かな王女としての気品のある一面と幼心が残った愛らしい一面を持つ彼女にとても興味が惹かれるんだ。だからもっと一緒にいて知りたい」
「………そこまで言うんなら、私は口出ししない。ついてこい。この街の奥に森があってそこを抜ければ確実に振り切れるはずだ」
私はカリファを強く揺さぶって起こす。目を擦りながら聞いていたカリファだったが、私が『王国軍』のワードを話すと、体を震わせて飛び上がり、瞬く間に身支度を済ませる。
「私に着いてきてくれんだね。ありがとう、イシュタル」
「おばさん、スープ飲めなくてごめん。またね」
「ええ、事情はよく分からないけど、いつでも帰ってきなさい」
私たちはフレイの先導を受けながらおばさんの家の裏口から外に出る。
おばさんの家は街のなかでも森側にある。朝早いためか街の人は誰もおらず、王国軍の場違い感が強かった。
計画を大雑把にしか立てず見切り発車で来たようで、幸いにも街の入り口で佇んでいるだけだった。
するするとフレイの後を追って、住宅地の隙間を縫っていくとすぐに森に到着した。
「私が助けられるのはここまで。カリファ、イシュタル、頑張ってね」
フレイは口に人差し指をつける。ばれるから何も喋るなということなのだろう。
私たちは深々と頭を下げて森のなかを進んでいった。
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