第三話

 

 ドーーーーーンッ!!


 菊や牡丹の王道の花火から始まって、ここぞという場面で上がる柳花火は圧巻だった。

 耳に入る花火の音は彼女たちを祝福する福音のようであった。

 花火の雨は止まない。街の職人がこれ忙しと発射しているからだ。職人たちは彼女たちを祝福する気持ちと同時に、職人たちが花火に込める誇りが垣間見える。


 「王国生誕祭の時も、花火を発射すればいいのにね」


 カリファは花火にうっとりしながら、王都への愚痴を漏らしていた。

 私は王都に入った経験はこの前の牢屋に投獄された時しかない。生誕祭の内容が気になるのでカリファに詳細を聞いてみることにしよう。


 「そんなに生誕祭はつまらないのか?」


 「つまらないなんて言葉じゃ片付かないよ。お父様と癒着のある貴族だけが王宮に集まって談笑するんだよ?なんも楽しくないじゃん」


 「予想よりも終わってるな…」


 「やっぱりそうだよね。私が王になったらもっと盛り上げてやる!!」


 なれるよ、とカリファを鼓舞したかったが、今はまだその時ではないと思い、喉に言葉が詰まってしまった。

 ラストを締めくくる飛遊星花火が打ち上げられ、それに続いて一斉に歓声も上がった。

 拍手と歓声の渦の中。新婦であるフレイたちは自分たちの家へと帰る。花火が上がる前におばさんから聞いたのだが、この街の結婚式のルールの一つに初夜は決して家から出てはいけないのがあるそうだ。

 風習だけが残ったため、家から出ない理由は定かではないみたいだが。

 サリオンに脱国するかこの国に残るかは決定するのは明日の朝よりも後になってしまいそうだ。

 結論はじっくり決めるか。

 フレイが家に入ると、ほとぼりが冷めぬまま続々と帰っていく。その行列を掻き分けて私たちのもとへ向かってくる人が一人いた。

 それは紛れもないおばさんだった。


 「あんたたち、今日泊るところないだろ?」


 「それなら心配はいらない。宿泊施設の明かりがまだ灯っているだろ。あそこにチェックインするよ」


 「なーに言ってんの。祭りの日まで夜遅く働いているなんて聞いたことないでしょ。いいから、私の家に泊まりな」


 おばさんは私たちの首根っこを掴み、家まで引っ張ろうと画策する。

 カリファは怪訝そうな顔することもなく受け入れて引っ張れる。私も抵抗せずにおばさんに甘えるとしよう。

 おばさんの家に向かう途中、カリファは突然おばさんに対して質問をした。


 「ねえおばさん。好きってなんなんだろう?」


 「いきなり哲学的な質問をしてくるね。フレイちゃんたちを見て疑問に思ったのかな。逆にカリファちゃんはどう思っている?」


 おばさんは私たちの首から手を離して、歩くのを促せる。


 「えーと、お互い愛し合ってればいいんじゃないの?イシュタルはどう思う?」


 「え、私?」


 まさか、私に話が降られるとは。右から左へと話を流していたので、全く考えていなかった。

 好きか。そういえば父さんは母さんのことどう思ってたんだろう。


 「自分の全てを捧げたいと思ったらそれが好きなんじゃないの?」


 私は腕組みして得意げに答えた。父さんと母さんを見ていたら、自然と言葉が出てきたのだ。


 「二人ともいい答えを持ってるね。どちらも正解だ、いや正解は無いのが正しいというべきか。私が答えるとしたら、


 「なんかかっこいいね」

 

 私も同意見だった。いつかそんな運命な人に出会ってみたい。

 おばさんの話に心がしみじみとしている、おばさんの家に到着した。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る