第45話


本当に彼女はこの港周辺の土地を買い占めた。

潤沢な資産があるにはあるだろうが、ここまで金を持っているとは思わなかった。


「逆玉の輿ってことだな先生!」


「玉の輿なんて、そんな言葉を知っているのなら、五カ国語で挨拶するくらい簡単だな。ミッキー、新学期までの宿題に付け足そう」


「えー!そんなのずるい!無理だ!」


「やる前から無理は無しだ」


ミッキーはふざけてばかりで、勉強はなかなか捗らない。


皆に教科書をしまうように言う。


「それじゃ、来週から長期の休みに入る。みんな勉強を怠らず、真面目にコツコツ毎日続けるんだぞ」


「そしたら先生みたいにきれいな彼女ができるの?」


口が減らないミッキーを急かし、今日の授業は終わりだと告げた。

皆、帰りの準備を始め、私も帰る用意をした。



今日は僕の家でアイリスが待っている。


そう思うだけでドキドキしてきた。

今日こそはちゃんとアイリスに伝えようと決めた。



僕は、もう一度結婚して欲しいと言うつもりだ。


彼女と一緒に住んでいるわけではないから、いつも帰ってしまうのが寂しかった。

彼女のことを考えると夜はなかなか寝付けない。


何も持っていない自分を受け入れてくれるだろうか心配だけど、一生彼女に尽くそうと決めているから、その事は誠心誠意伝えようと思った。


プロポーズに指輪は必要だろうと思い、教師の給金から何とか捻出した。

安物だから恥ずかしい。


けれどプライドなんてものは、くだらない物だと彼女が教えてくれた。


途中花屋によって花束を買った。アイリスの花だ。


彼女は喜んでくれるだろうか。


年甲斐もなくかなり緊張してしまう。






「結婚して欲しい。僕は君が好きでどうしようもないんだ」


他にもたくさんプロポーズの言葉を考えていたけど、彼女を前にすると全部飛んでしまった。


「ええ……やっと言ってくれたのね」


アイリスは笑った。


ああ……待たせていたんだと思った。

時間をかけ過ぎてはいけない事がある。



沈黙が続いた。

いつも泊っていってくれないかと言いたくて、言えずに帰してしまっていた。

今夜は帰さないつもりだ。



「その……あれだよな……結婚して、それがなかった事になり、結婚して、それでそれから」


なんだかちょっと挙動不審になってしまう。


「それから?」


「いや……、その……やっぱり順番というか順序というのは大事だと思うんだ」


「順序……あ、」


アイリスは思いついたように目を見開いた。


「初夜が無かったですものね、私たち」


「そうなんだ。あの時は、その、すまなかったと思っている」


「まぁ……」


今更感が拭えない。


「僕は、君のことが大事だ。それで、君の子供がいれば……それは、その僕の子供でもあるんだけど、とても可愛いと思うんだ」


「ええ。そうね」


「それで、できれば早いほうが良いと思って」


伝わっただろうか。


「面倒です」


「え?」


「いろいろ、もう。ずっと待っていて、私は待ちくたびれてしまったので」


待たせ過ぎたんだ。


「め、面倒なの!?」


「とっとと、どこかよそで済ませてきましょうか?初夜」


「駄目!駄目だ。違うだろ…」


ふふふ、と笑ってアイリスは僕の膝の上に座った。

僕はアイリスをギュッと抱きしめた。とてもいい香りがする。


「君はとても、軽いな」


そう言って僕はアイリスを抱き上げるとそのまま寝室へ向かった。



優しく彼女を寝室のベッドおろした。


      

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