第8話 レリク脱獄



 町の小さな刑務所に身柄を預けられ、レリクは絶賛投獄中。

 今はサガラに受けた剣の傷を癒す為、練気れんきと呼ばれる気のエネルギーを体内で循環させ超回復させていた。

 これは体術系スキルの基礎であり、要である。


 魔法系スキルが魔力を消費するのに対して、体術系スキルは練気を消費する。

 いずれも鍛錬によって磨かれ、レリクのレベルになれば治癒魔法を使用しなくとも自身の体を修復させる事が出来る。


「……よし、治った」


 薄暗い鉄格子の中で呟き。

 これからどう動くか考えていると。

 ふと、奥の扉が静かに開くと同時。

 急に見張りをしていた看守が倒れた。


「?」


 疑問に思いながら開いた扉を見つめると。

 中からひょっこりとシュシュとルディーが顔を出した。


「ああ、睡眠魔法か」


 泥のように眠る看守を見て、ルディーが魔法をかけたのだと気づいた。

 二人はレリクが投獄されている部屋を見つけると、忍び足で彼の元へ駆け寄り呆れた様子で彼を見る。


「……先輩」


「あんた、何捕まってんのよ」


 冷たい二人の視線など気にせず、レリクは今の状況を伝えた。


「そんなことはどうでもいい」


「そんなこと?!」


「山の神殿に人が連れ去られているらしいんだ。早く助けに行かねえと」


「あんたが捕まったせいで私らも追われる身なんだけど?!」


 現在レリクは魔物凶暴化の元凶として冤罪をかけられ投獄されている身。

 そしてその共犯者としてシュシュとルディーも町中から追われる事となったのだ。


「悪いとは思ってるよ。まさか転生者が出会いがしらに犯罪の容疑をかけてくるとは思わなかったんだ」


 シュシュはレリクの服に付いた血痕に目を向ける。


「先輩、その傷」


「ああ、あいつの能力を甘く見てた。お前らも転生者に会ったら必ず距離を取れ。あいつの支配圏内に入ると動きを封じられる」


「なら、一旦町を出て三人で神殿の調査に向かいますか?」


 シュシュの提案に、レリクは首を振った。


「いや、もうすぐ日が暮れる頃だろ? いつ魔物がやってくるか分からない。二人は町に残って魔物の殲滅にあたってほしい」


 この町の戦力を鑑みて、今全員で町を抜けるのは得策ではないとレリクは考えた。

 一人のほうが動き易いうえ、町で何か起きてもシュシュとルディーがいるという安心感があるからだ。


「私らお尋ね者なのに?」


「だから悪かったって。道中魔物に遭遇したら出来るだけ狩っておくからさ。それに町の人に拘束されそうになったら誘惑チャームの魔法で魅了すればいいじゃん。得意だろ? そういう色仕掛けみたいなの」


「あんた私を何だと思ってんの!」


「だってこの間、親族に女淫魔サキュバスがいるって言ってたから。淫魔の血が混じってるからスタイルがいいんだって自慢してたじゃん」


「別に自慢してねえわ! サキュバスの特性上、常にボディーラインが整う構造になっててスタイル維持が楽だって言っただけだし!」


「そこそこ自慢だよ、それ」


「あとサキュバスがみんな淫猥だと思うなよ! 私のおばあちゃんはカッコよかったんだから!」


 レリクの偏見に腹を立てながらも。

 これ以上長居すると他の警備兵が来そうだとシュシュに諭され、本来の目的であるレリクの救出にあたる。


「ったく……ちょっと離れてなさい。今解錠魔法で開けるから」


 ルディーは膨れ顔で牢屋の鍵を開けようと手を近づける。


「あ、大丈夫」


 すると、レリクは何食わぬ顔で空間に空洞を開け。


「俺、空間転移出来るから」


 鉄格子を挟むようにして前後に空間の穴を展開し、レリクはすり抜けるように牢屋を出てきた。


「私ら助けにきた意味なかったじゃん! さっさと出なさいよ!」


「深手を負ったから自然治癒を待ってたんだよ。それに、ここで情報共有出来たから意味はあるさ」


 そう言って、レリクは首を鳴らし凝った体を解きほぐすと。


「じゃあちょっと行ってくるわ」


 ルディーの静止も聞かず、地下牢から走り去って行った。


「あ、ちょっと待って! ……もう、勝手なことばかり言って」


「まあレリク先輩なら問題ないでしょう。僕らも魔物の襲撃に備えてどこかに身を――」


 とシュシュが言いかけた時。


「う~ん……あれ? 俺、なんでこんなところで……え?」


 嫌なタイミングで睡眠魔法が解け、看守が起きてしまった。


「あっ……」


「え? 誰?」


 一時の沈黙が流れたあと。


「【誘惑チャーム】」


「あ……」


 咄嗟にルディーはレリクが話した案に乗じていた。


「お兄さん、私達ここから出たいの。裏口教えてくれる?」


「は、はい……」


 耳元で囁きながら、恍惚の表情を浮かべた看守を誘導し脱出することに。


「睡眠に魅了に……この人散々じゃないですか? っていうか、結局色仕掛けの案を採用するんですね」


「やかましい。急だったからこれしか思いつかなかったの! いいから行くよ」


 そして、各々は目的のために再び別行動をすることに。



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