第7話 レリク逮捕



 時の運なれど、完全に町を出るタイミングを見誤ったレリク。

 転生者サガラに詰め寄られ、どう返したものかと考える。


「傭兵なんて依頼した覚えもないし、向こうからそんな文も届いていない。なら、あなたは何の用でこの町に来たんでしょう?」


 疑いの目で見てくるサガラに、レリクは禁足事項に触れない範囲で説明した。


「……慈善活動、みたいな?」


「へえ、魔物が凶暴化したこの危険な時に、大したボランティア精神ですね」


「だから、その魔物凶暴化の原因を突き止める為に調査しに来たんだよ」


 そう言うと、サガラの隣りにいた女性が前に出て目を大きく開いた。

 同時に、彼女の青い瞳が黄色く輝く。


 ――鑑定魔法……いや、魔眼か。


 そうレリクは推測した。


「ユリファ、彼の言葉は真実かい?」


 やはり鑑定系スキルだと、予想が当たった事に少し複雑な面持ちになる。


 ――まあ、嘘は言ってないしな。素性はバレるけど町を追い出されるよりはいいか。


 疑いが晴れるならば仕方なし。いざとなれば天界関連の記憶を消すアイテムを使用するつもりで、レリクは彼女の審判を待った。

 すると、ユリファと呼ばれた女は瞳を閉じ。

 そして首を振った。


「いいえ。この人は嘘をついているわ」


「なんでだよ!」


 思いの外、彼女の裁判は不当だった。


「細かい部分までは読めなかったけど、間違いなく隣町の傭兵じゃない。敵対国のスパイ……もしくは、魔物が凶暴化した元凶なのかも」


「いや、おかしいだろぉおお!」


 話がどんどん飛躍してゆく状況に異議を唱えるが。

 隣で聞いていたサガラは「そうか」と、何かを察したように頷いた。


「やっぱり、何もないこの町に突然人が来るなんておかしいと思ったんだ」


「ウソだろ、精度ガバガバな鑑定スキルだけで俺を罪人だと決めつけんの?」


「当然だ。彼女の曇りなき眼で見通せなかったものは、今まで一つとしてなかったからね」


「だとしたらお前の目が曇ってるよ!」


 冤罪をかけられたレリクは必死に弁解するも。

 ユリファは「気をつけて」と口添えし、サガラを誘導する。


「この人は今、核心を突かれて動揺してる」


「そりゃ動揺するだろ! あらぬ疑いをかけられてんだから」


「それにステータスもすごく高い……。今ここで討ち取っておかないともっと被害が出るわ」


「情状酌量の余地も無く殺されんの? 俺」


 通りかかっただけで戦闘に発展する展開の速さに追い付けないでいると。

 サガラは有無を言わさず腰に下げた剣を抜いた。


「残念だよ。無駄な争いはしたくないんだけどね」


「じゃあやめてくれよ」


「そうもいかない。ここで君を逃がしたら町の皆に示しがつかないからね。けど、もし魔物の生体系を戻す術を知っているなら教えてほしい。そうしたら命までは取らないよ」


「それはこっちが聞きたいんだけど」


「聞く耳持たず、か」


「それもこっちのセリフだけどな!」


 もはや完全に戦闘態勢に入ったサガラに話は通じないと悟ったレリクは、仕方なく相手をすることに。

 だが、レリクが構えた途端。


 ――ん? あれ、体が……。


 サガラを前にして、急に体が金縛りに遭ったように動かなくなった。


「君がどれだけ強いのか知らないけど、僕の前じゃ無意味だよ」


 そこでレリクは気づいた。


 ――そうか、こいつの能力、『脚本支配シナリオドミネート』だった……。


 あらゆるものを自分の意のままに操る力。

 それが彼の能力だった。

 サガラが勝ちたいと思えば、必然的に能力が発動し。

 無防備となったレリクはただ彼の攻撃を受けるしかなかった。


「一撃で終わらせる!」


 ――ヤバイヤバイヤバイ!


 そして、サガラは身体強化スキルで威力を底上げすると。

 大きく振りかぶった剣はレリクをバッサリと斬り付け。

 レリクは胴から派手に流血し、その場に倒れた。


 二人の一方的な戦いが終わると、門番の男とユリファはサガラに称賛の声を上げた。


「おお、さすがはサガラ様。賊を一太刀で倒すとは」


「やっぱりサガラは強いわ。魔物だってあなたがいれば何も怖くない」


 褒め称える二人に適当な返事をしながら。


 ――今、体を真っ二つにする程の力で振るったはずなんだけど……。


 サガラ自身、手ごたえのなさに違和感を覚えた。

 岩をも切断する威力を持つスキルを使用したはずが。

 レリクの肉体はそれ以上の強度をほこっていたからだ。


 ――傷も、塞がりかけている? 


 何より、血しぶきを上げていたレリクの体はみるみる回復し、一瞬にして血が止まったのだ。


 ――何なんだ、こいつ。


 得体の知れない者を前に、今までにない恐怖が芽生えた。


「この男、まだ息がありますね。いかがしましょう?」


 門番の男が問うと。


「少し、話が聞きたい。彼を牢に閉じ込めておいてくれますか? それから彼の連れも見つけ次第僕に報告して下さい」


 レリクの素性が気になったサガラは、彼の身柄を確保し、個人的に干渉しようと決めた。


「ユリファも、それでいいかい?」


「ええ、あなたがそうしたいなら私は従うわ」


 そう言ってユリファはサガラの腕を掴み、二人は町の奥へと去っていく。


 その間際、彼女は再び黄色く目を光らせレリクを凝視した。

 サガラ以上に、彼女はレリクに危機感を覚えたからだ。


 ――この男、早めに始末しないと厄介な事になる。


 そんな思いを抱きながら。



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