第6話 転生者との対峙



 形式上、派遣兵としてやって来た体のレリクだが、話が広まるとすぐに嘘だとバレる。

 だからこそあまり人通りのない場所を選びつつ、町の者に聞き込み調査をすることに。



 しばらく歩いていると、壊れた建物の壁に寄りかかり、疲れたような姿で呆けている中年男性を見かけた。


「あの、ちょっとお聞きしたいんすけど」


 レリクが声をかけると。


「なんだ兄ちゃん、俺の頭がハゲてるのがそんなにおかしいかい?」


 ――いや思ってねえ!


 わざわざ自分からチャームポイントに触れる言い方で力なく返した。


「俺だってなあ、好きでこんな頭してんじゃねえんだ。こんなナリでも汗水流して必死に働いてよ、家族の為にこの身を削って頑張って来たんだ。それなのによ……」


 ――俺何も言ってないのに滅茶苦茶落ち込んでる……。


 面倒だと思いつつも、一先ずは慰める方向に切り返すレリク。


「いや、そんな……頭皮にビハインド抱えたくらいで落ち込まんで下さいよ。些細な個性を気にする程、人はあなたの頭に関心ないですし」


「へっ、ガキが気休め言ってんじゃ……え、そもそも今気休め言ってた?」


 言ってはいなかった。


「まあ一応フォローのつもりでしたけど」


「あ……そうなんだ」


 男は腑に落ちない表情を浮かべながらも。

 話しているうちに少しばかり元気を取り戻した。


「それで、俺に何を聞きたいんだって?」


「そうだ、最近立て続けに魔物の被害に遭っているそうですけど、魔物の数と、被害状況について知っている範囲で教えてほしいんです」


 レリクがそう言うと、再び男は気落ちした素振りを見せる。


「知ってどうすんだ? お前がどうにか出来るとでも思ってんのか?」


 直近まで魔物の被害に遭っていた男は、レリクの発言に苛立ちを見せていた。

 レリクは返答しなかった。

 ただ黙って視線を向けていると、男は諦めた様子で溜息を吐きながら続ける。


「毎晩、夜になると必ず魔物の軍勢が襲撃に来る」


「数は?」


「ちゃんと数えた事はないが、20かそこらだろう。だが、一体一体が馬鹿みてえに強い。俺達が束になっても魔物一匹倒せねえのさ」


 先程相手をしたゴブリンを見れば、当然の結果だとレリクは思った。


「襲って来る魔物に、共通点はありましたか?」


「あ? どういう意味だ?」


「たとえば、毎日決まった場所を襲撃するとか、皆同じ行動を取るとか……。いやね、この辺の魔物がただ殺戮の為に襲うのだとしたら、町は一晩で壊滅するだろうと思って」


 レリクは先程の疑念を思い浮かべていた。

 野生の、それも種類様々な魔物が集団行動を取る事自体がおかしいと。

 圧倒的なレベル差があるにも関わらず、町人を皆殺しにしないのは何故なのかと。


 浮かんでくる回答は一つ。

 明確な意思で、魔物を精神操作している者がいると、そう思った。


「そういえば、決まって魔物どもは何人か女、子供を攫っていく。それで……」


 言いながら、男は頭を抱え涙を流した。


「俺の……大事に育ててきた娘も連れ去られたんだ。もう奴らに食われちまってるかもしれねえ……。俺は、俺は……娘一人守ってやれねえダメな父親だ」


 レリクは男の体中に出来た傷跡を見つめた。

 魔物に受けたであろう、癒えきっていない鮮明な傷。

 決死の覚悟で立ち向かったであろう男の傷を見て、静かな怒りがこみ上げた。


「おっさん、魔物は霊山の神殿から来るんだってな」


「え、ああ。そう聞いている」


 男は一瞬戸惑った。

 レリクの雰囲気が急に変わったからだ。


「とりあえず、行ってみるしかねえか」


 さらわれた者がいるならば。

 生きている可能性があるならば。

 ここで時間を使うわけにはいかないと、レリクは神殿に向けて歩き出す。


「おい待てよ! あの魔物の住処に行くつもりか? 馬鹿野郎、今日初めて会った相手の事情に首突っ込む気かよ! あんたみたいな若者をみすみす見殺しに出来るか!」


 突発的なレリクの行動に、男は怒鳴りながら止めるが。

 レリクは足を止めない。


「大丈夫だよ。俺もそこそこ腕は立つから」


 自分の管轄外の世界でも。

 手の届く限りの人は救いたいと、そう思い。


「……だから、あんたも希望を捨てるな」


 そう言って、止める男を振り切りレリクは再び町の外へと向かった。



■■■



 ルディーらと合流するよりも先に、レリクは神殿へ向けて先程の入り口へ向かうと。


「それでは引き続き警備のほうをよろしくお願いしますね」


「勿論です。今日こそは魔物を撃退してみせますとも」


 先程の門番の男と、見た目若い男女のペアが話し込んでいた。


 ――あいつらは?


 男が畏まった様子で話しているのを見て、警備兵よりも位の高い二人なのだとレリクは推測する。

 すると、入口へ向かおうとするレリクを見た男が声をかけた。


「あ、お前はっ!」


 少し怒った様子の男は、二人組の青年のほうに口添えをする。


「サガラ様、あいつです。港町から派遣された傭兵だと言っていた奴は」


 ――サガラ?


 ピタリとレリクは固まった。

 まさかこんな場所で、町の領主である転生者と鉢合わせるなど思ってもみなかったからだ。

 レリクに視線を向ける青年は、若干警戒した様子で彼に尋ねた。


「初めまして、この町の領主をしているサガラです」


「あ~、えっと……ども」


「率直に言いますが、あなたは何者ですか?」


 早々に嘘がバレたレリクは言葉に詰まる。

 身分証など無い、住所不定の天界人。

 先にルディー達と合流していれば良かったと、レリクは後悔した。



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