第5話 情報収集
そこら中の建物が崩れ、瓦礫が散乱した風景。
町を囲う防壁も所々破壊され、舗装が間に合わない状態。
三人は町民の心中を心配しながらも、情報収集の為、拠点となる宿を探し始める。
その矢先。
「待て」
正門を通った途端、門番の男性に止められた。
「先程
三人は同時に口をつぐんだ。
天界から転移装置で降りたところまでは見えないはずだが。
万が一痕跡が見つかった場合、面倒な事になるからだ。
「この町から反対に位置する登山口は港町の方面だ。お前達、今は禁止区域になっている霊山からこの町へ来たのか?」
地上へ転移した場面を見られていなかった事に肩を撫で下ろすルディーだが。
この世界、この地域のルールを細かく確認していなかった為、門番の男に新たな疑心を植え付けてしまった。
「えっと、その、私たちは……」
ルディーは口ごもりながらレリクにSOSサインを視線で送り。
レリクは首を振りながらルディーに×印のジェスチャーを返した。
それを見たシュシュは、事前にコピーし持ってきていた周辺地図を開き。
「僕達はここを治める領主様の要請で派遣された、傭兵です」
そして瞬時に虚構を組み立てた。
「よ、傭兵? 聞いてないぞ」
「急な要請でしたので」
あたかも事実のように、シュシュは顔色一つ変えず男に論じる。
「見たところ、この町は復旧に手間取っている様子。やはり魔物の被害で?」
「あ、ああ。ここんとこ毎日だ」
「でしょうね。おそらくはその所為で伝達が間に合わなかったのでしょう」
「……なるほど」
相手に考える余地を与えず、畳み掛けるように会話を続けるシュシュ。
「差し当たっては、この周辺の調査で二、三日町に滞在する事をお許し下さい」
「いやぁ、まあ、領主様からの要請だったらわざわざ俺に許可を取るまでもないが……」
「助かります。それからお手数でなければ、現在の被害状況などを知りたいのですが」
シュシュの気転によって疑いを逸らす事に成功し、レリクとルディーは互いに胸を撫で下ろす。
そして、こちらのペースに持っていったシュシュは、相槌を打ちながら男に町で起きた詳細を聞き出した。
「この地域の魔物は比較的弱く安全な場所だったんだが、最近になって恐ろしく強くなったんだ。霊山を通って来たお前らなら分かると思うが、今の俺達じゃまるで歯が立たない」
「たしかに、異常な強さでした。原因に心当たりは?」
「近辺を調査したんだが、霊山の中腹に今は使われていない神殿があるだろ? どうやら魔物はあそこから町に向かってくるらしい」
シュシュはチラリと地図を見て頷く。
「ああ、あの神殿ですか。なるほど、使われずに放置されていた場所にゴブリンが住み着いたと」
「ゴブリンだけじゃねえ。キラーマンティスにウォーキングメイルもだ。本来共存しないはずの魔物達が何故か一カ所に寄り集まっているんだよ」
「それは、妙ですね」
三人は互いに目を合わせ意思疎通を図った。
凶暴化の原因は生態系の乱れではなく、人為的な介入があったのではないか。
そう疑ったからだ。
「ありがとうございます。僕らはもう少し町で情報を集めますのでこれで」
あらかたの収穫を得たシュシュは、男に挨拶を交わし町の中心地へ向かおうとした時。
「そうだ、あんたら領主様にも会うんだろ? だったらあっちだ」
去り際に、男は遠くに建つ領主宅を指差した。
正直余計なお世話だと思った三人だが、領主の名を出した以上無下にも出来なかった。
「分かりました。では顔を見せに行ってきます」
仕方なく、領主宅に行くフリをして回り道をすることに。
「ああ、ウチの領主、サガラ様によろしくな」
だが、笑顔で手を振り去って行く男に一同は固まった。
「サガラ……?」
先程の資料で拝見した転生者と同名だったからだ。
「おい、転生者が領主やってるなんて聞いてねえぞ」
「私だって知らないわよ! データでしかここら辺の情報集めてないもん」
真偽は不明だが、転生者が町の領主を担っている。
基本的に記憶を持った転生者は、全ての創造主たる女神によってステータスの恩恵を受けている。
その転生者の治める町が、未だ魔物の被害に遭っているのだ。
つまりは一人の強者だけでは防げない程の脅威なのだと三人は思った。
「一度話は聞いてみたいけど、その領主様から要請を受けたとか嘘言っちゃったしな」
「すみません、余計な事言ってしまいましたね」
「いいさ、むしろよく咄嗟に舌が回ったもんだ」
と、シュシュを称賛しつつ。
とりあえずは転生者に鉢合わせないように情報を集める為、三人は各々別行動で調査を進める事に。
「それじゃ、一時間後くらいに宿屋へ集合な」
そう言って、レリクは二人と別れ裏路地へと向かった。
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