第4話 転生者のいる町



 魔物の群れを撃退した三人は、再び町を目指して下山していた。

 その道中、何体もの魔物の残骸が打ち捨てられており、中には人の10倍はあろうサイズのドラゴンの死骸も見かけた。


 レリクは懸念を抱きながらルディーに問う。


「なあルディー、あのドラゴン絶対この山のボス的なやつだったよな」


 ルディーは唇を引っ込め無言で歩を進める。


「なあルディー、あのドラゴン絶対さっきのゴブリン達にやられたよな」


 ルディーはあからさまに聞こえないフリをしながら尚も歩を進める。


「なあルディー、近くに町があるって話だけど、魔物の被害は大丈夫なのか?」


「あ~もう、うっさいな! 分かってるわよ。私の不安を全部口にしないで!」


 しつこく話しかけるレリクに根負けし、ようやくルディーはレリクに反応した。


「魔物凶暴化の発生源はこの付近。この大陸から世界中に伝染していっているとしたら、ここが一番の危険区域なのは間違いないわ」


 ルディーはタブレット端末を開きデータを確認する。


「けど、今向かう町には転生者がいるの。生前の記憶と年齢を保持したタイプのね」


 人が一生を終えて天界へ還る際、稀に記憶を残した状態で生まれ変わる事がある。

 天命を全う出来ずに不当な死を迎えた場合。

 あるいは生前積んだ善行が多かった場合。


 いずれも記憶を引き継いだまま、姿や年齢を自由に選びながら人生をやり直すかどうかの選択が出来る。

 そして、新たに転生する際に固有能力ユニークスキルを譲渡されるのだ。


「未だに町が残っているのは、きっと強い転生者が町を守っているからだと思う」


 と、ルディーはわずかに期待しながら仮説を述べる。

 だが、レリクは転生者にあまり良い印象はなかった。


「転生者か……。まともな奴ならいいんだけど」


 記憶保持者の転生は、前世よりも楽に生きられるように配慮されている。

 その為、新たに得た才能を過信し、酔いしれ、増長するケースがある。


「もらいもんの力で暴君になってない事を願うよ」


 二百年様々な世界を見てきた経験から、そんな懸念が生まれるのだ。


「もう! 人がせっかく前向きになってるところに水差さないでよ」


 ポコポコと胸板を叩くルディーをレリクが適当にあしらっていると。


「お二人共、見えてきました」


 シュシュの一声で二人は同時に視線を向けた。

 その先には、荒廃したような町並みが広がっていた。



■■■



 しばらくして、三人は町の入り口に到着した。

 復旧作業に追われているのか、あくせくと人々が動き回っている。


「一応、滅んではいないようね」


「ギリギリだけどな」


 見る限り、襲撃に遭ったのは一度や二度ではない。

 幾度となく魔物に襲われたのか、怪我人も多く人々の生気も感じられない。

 やはり転生者一人では町の脅威を守りきれないのかとレリクは思い。


「そう言えば、この町に滞在しているっていう転生者の情報を教えてくれよ」


 現時点での町の戦力を計る為、ルディーに転生者のステータスを尋ねた。

 ルディーは端末を開き、ふむふむと頷きながら詳細を調べる。


「えっと、名前はサガラ・タテモト。十八歳の男性で、好きな食べ物はカレー。趣味はネットサーフィン? ってので、性格は……奥手だけど惚れた女性には一途で尽くすタイプだって」


「そういうのが知りたいんじゃねえよ!」


 正直名前以外どうでもいい情報だと思った。


「もっとあるだろ、そいつのステータスとかスキルとか! 縁談で活躍するような情報は求めてないの!」


「え~、教えろって言うから教えたのに……」


 などと愚痴を漏らすルディーにイラっとしながらも、再び資料に目を通す彼女の返答を待った。


「なるほどね~。レベルは65、戦闘能力は達人クラスだね。そしてこの人の持つ固有能力ユニークスキルが『脚本支配シナリオドミネート』」


 ルディーの言う『脚本支配』とは、所有者の周囲に結界を展開し、その結界内にある全てのものは所有者の意のまま操れるというスキル。


 範囲は限られてはいるものの、スキル効果範囲にいるだけで、物も人も天変地異さえも絶対的支配権の元、所有者が思い描く通りの結果が起こる。

 つまりはその者の気分次第で全てが決まるのだ。


「げ、敵に回したら厄介な相手だな」


「だね。もし出会ったら物腰柔らかくいこう」


 一先ずは情報収集の為、三人は町の入り口へと踏み入れた。



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