第3話 魔物の一掃



 地上に降り立った三人の前に、突如として現れた魔物の群れ。

 ゴブリンは高い繁殖能力があり、こことは別の世界でも数多く生息し、その個体数は日々増え続けている狡猾な魔物の代表例。


 しかし反面、魔物としての強さは弱い部類であり、戦闘訓練を受けていない一般人でも単体ならば十分勝てる。

 だが目の前にいる敵襲はその常識を覆すものだった。


「うそ……何こいつら、レベルがおかしいんだけど」


 ルディーは鑑定魔法で魔物達の情報を調べると。

 自身の視野だけに映る文字が魔物の頭部辺りに表示され、驚愕した。

 通常、ゴブリンの個体レベルは2~3。

 一般人の平均レベルが5だとすると、大した脅威にはならない。


 しかし、目の前にいるゴブリン達の頭上に表示された数値は20以上。

 一般人のおよそ四倍の強さを持つ個体が群れを成して三人の前にいる。


「21、23,20、24……一体一体が統率者ゴブリンキング並みのレベルじゃない。しかも弓使いアーチャー魔術師ソーサラーまでいる」


 数にして30以上。

 これは一国の、熟練された精鋭部隊と同じ脅威であり、小さな町ならば簡単に墜とせるレベル。


「なるほどな、そのレベルの魔物が世界中に蔓延しちまったら、そりゃ生態系もおかしくなるわ。人類が滅ぶのも時間の問題だ」


 レリクはめんどくさそうに頭を掻きながら呟くと。

 ルディーは焦った様子で魔物達を指差した。


「言ってる場合?! とにかく目の前のアレを何とかしないと私達が全滅しちゃうよ」


「大丈夫だ」


 レリクはそう言うと、おもむろに両側面に手を伸ばした。

 すると伸ばした手の先の空間が裂け、黒い渦のようなものが発生し。

 そこに手を突っ込み、両側面からそれぞれ短剣を取り出した。


「レリク、それ空間魔法?」


「うん、女神の祝福でもらった固有能力ユニークスキル、『拡張空間ビッグポケット』」


 元々地上界にいた者が天界人になるのは、『戦乙女ヴァルキリー』と呼ばれる神の使いに選ばれることが条件だった。

 それは優れた能力と人格を考慮した、厳しい選定の元で選ばれる特別な者達であり。


 そんな彼らには、特典として新しい能力スキルを譲渡される。

 それが女神の祝福、固有能力ユニークスキルである。


「空間系のスキルは生前から心得があったから、勝手が良いんだ」


「ふぅん、魔法が使える双剣使いなの?」


「別に双剣が持ち武器じゃないよ。俺、大抵の武器と、それに応じた体術スキルが使えるから」


「何そのチート」


 レリクは得意げに二本の短剣を投げ回しながら魔物達へ近づき、シュシュに指示を出す。


「シュシュ、俺が先陣を切るから、お前は討ち漏らした奴と遠距離攻撃をするゴブリンからルディーを守ってやれ」


「分かりました」


 そんな二人にルディーは頬を膨らます。


「ちょっと、足手まといみたいな扱いしないで。私だってちゃんと戦えるわよ!」


 ムキになり急いで自前の弓をセットし始めるルディーに、シュシュは言った。


「いえ、足手まといという意味で言ったわけではなく、多分レリク先輩一人で大方片付けられるからだと思います」


「え、でもこの大群だったらみんなで戦ったほうが……」


 そんな会話をしていると。

 突如、レリクは瞬間移動したかのようなスピードで魔物の前に接近し。

 瞬きした瞬間には、ゴブリン数体の首が落とされていた。


「え……えええええ!」


 あまりの速さにレリクが何をしたのか分からなかった。

 そんなルディーの心境など知る由もなく、レリクは流れるような軽いフォームで敵陣を瓦解させてゆく。


「10、11,12」


 数を数えながら淡々とゴブリンを仕留めていくレリク。

 すかさず弓使いのゴブリンが彼目がけて弓矢を放つが。

 レリクは避けるでもなく、片手の短剣を口に咥え、空いた手で飛んできた弓矢を手でキャッチした。


「そこかよ」


 そして矢が飛んできた茂み目がけ、今しがたキャッチした矢を投擲。

 それは茂みの奥で、ゴブリンの脳天を貫いていた。

 圧倒的な戦力差に、次第に魔物達は焦り逃げ惑う。


「逃がさねえよ」


 そんな魔物達を一網打尽にしようと、レリクは双剣を構え、体内の気をエネルギーに変える技、体術スキルを繰り出した。


「【四連斬撃テトラ・クシフォス】」


 宙を飛び交う真空波の斬撃に、周囲にいた魔物の群れは一斉に切り刻まれ絶命した。


「何匹か討ち漏らした。シュシュ! そっちは頼む」


 完全一掃出来なかったレリクだが、彼の目に焦りはない。

 一目散に敗走するゴブリン達は、待機していたシュシュとルディーの方向へ突進する。


「任されました」


 すると、シュシュは腰に下げた長剣の柄を握り。


「【高速移動ラピッドムーヴ】」


 レリクに引けを取らないスピードで魔物達に接近し。

 ルディーが視界に捉えた頃には、魔物達は皆真っ二つに両断されていた。


「えええ……みんなそういう感じ?」


 並外れた身体能力を持つ二人に、若干引き気味に呟くルディー。

 そして出番の無くなった自身の弓を見つめながら、静かにそれをケースに閉まった。



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