トラスト Side:???
こうして、異なる世界からやってきた三人は力を合わせた。それぞれが扉の向こう側の試練を乗り越えて、赤いじゅうたんが敷かれた廊下へと戻ってくる。
「茶葉とティーポットなの!」
「茶こしと、電気ポット」
「ソーサー、ティーカップ、これはティーポットの――フタっすね」
新堂アサヒだけ三つなのは、扉が七つあって、三人組=一人は一部屋余計に行かねばならなかったからである。若いアサヒがボーナスステージを進んでクリアしてきた。
「ぴったりフィットなの!」
秋月千夏が手に入れたティーポットにはフタが付いていなかった。アサヒの手に入れたフタが、見事にハマる。
「紅茶を淹れろって話かな」
参宮拓三はまだ見ぬ主催の顔を思い浮かべながら、答えを導き出した。カップが一個しかないので回し飲みにはなってしまうが、それぞれが苦難を乗り越えて手に入れた一式である。何らかの効果を期待してしまう。
「お茶菓子はあったケド、さっきのところにお茶はなかったの!」
「水は、……トイレが使えたっすもんね」
「いや、きれいな水なら秋月さんが出せるでしょ? わざわざトイレの水を汲む必要はないじゃん。衛生面も心配だろ」
「水を出す?」
アサヒは首を傾げる。拓三は顔に水をかけられたのを
「ふっふっふ!」
頼られた千夏は、誇らしげな表情で手のひらから水を出してみせる。飲んだことはないが、拓三の反応から見てまあ問題はなさそうだ。
「花鳥風月?」
アサヒは某作品の駄女神を思い出して発言したのに、千夏や拓三にはただの四字熟語としか解釈されなかった。二人ともライトノベルやアニメには詳しくない。
「……いや、なんでもないっす」
明らかに滑っているので、自分から取り下げる。取り下げて、拓三が手に入れた電気ポットのボタンを押した。
「秋月さん、どうぞ。よろしくお願いします」
「りょうかいなの!」
「この間に、コンセント探しておくっす」
「俺も探そうかな」
と、コンセントはすぐに見つかり、溜めた水を温めてお湯にする。
「俺もなんか、能力欲しいな……」
「ふっふっふ。もっとうらやましがるといいの」
「自分はまあ、そうっすね、チームが勝てるような能力がいいっす」
茶葉と茶こしをティーポットにセットして、お湯を注いだ。
あとはゆっくり待つだけ――だと思ったか?
「お茶だ! お茶だぞお!」
両開きの扉を開け放って、大広間からタキシード姿のオジサンが出てきた。そのオジサンを「邪魔よ!」と乱暴に押しのけて赤いドレスのおばさんがのしのしと近付いてくる。
「その紅茶をアタシによこしなさい!」
ティーポットを三人の真ん中におき、しゃがみこんでそのできあがりを待っていた。とんだ邪魔が入ってきて、拓三が立ち上がる。
「なんですか?」
拓三が立ち上がれば、ふくよかな体型のおばさんでもひるむ。身長差で見下ろす格好になるからだ。
「この紅茶に、何か効果があるの?」
「あなたたち、わかっていないのに集めたの……?」
おばさんがなんだか引いている。三人はとにかく早く脱出したくて、ヒントを得るべくして扉の中のギミックと格闘した。七つの扉の謎解きを終えて、手に入れたものが紅茶セットだった、というだけだ。
「もしかしてあなたたちって、マダム・ヴィスタからのメッセージを見る前にあの部屋を出たのかしら?」
「メッセージなんてあったの?」
千夏、アサヒ、拓三の三名が顔を見合わせる。拓三は送り主も招待状の中身もはっきりと読めていないので何もわかっていない。アサヒは『ティーパーティーに招待します。お手持ちのゲーム機でコナミコマンドを入力してください』と書かれていた指示に従っただけだ。千夏がいちばん読めてはいるのだが、紅茶がどうのこうのと書いてあった記憶はない。書いてあったらティーセットが集まった時点で気付く。
「知りたい?」
おばさんが悪そうな表情になった。案の定「教えてほしければ、その紅茶をよこしな」と交換条件を出してくる。
「つまり、自分たちがあの部屋を出てから『マダム・ヴィスタ』氏のメッセージが流れて、紅茶を飲めば元の世界に戻れる、って発表があったっすか」
「そうなの!?」
「ち、違うわよ! お菓子を食べたらのどが乾いたのよ!」
「らしいの!」
「ウソっぽいっす。なんで信じるっすか」
「そうだそうだー! アーサーの神推理にのっかるの!」
千夏はあちらについたりこちらについたりと、忙しく敵味方を切り替える。やんやと言い争いしているのを横目で見ながら、拓三はティーポットから紅茶を一杯ぶん注いだ。
「抜け駆けするなっ!」
「どわっ!」
おばさんのタックルで紅茶がびちゃりと床にまき散らされた。その一部が電気ポットにかかってしまい、電気ポットが消失する。
「マジックなの!」
「やはりそういうことっすか」
脱出のカギは、紅茶。
茶葉はまだ残っているが、電気ポットがなくなってしまった今、お湯が作れない。水出し紅茶で効果があるかは、試してみなくてはわからない。
「このティーポットのぶんだと、全員ぶんが飲めるぶんはないっすね」
アサヒは大広間にいる全員――名前は知らないが、この空間に閉じ込められてしまったみなさん――が無事に帰ってほしい。そう思っている。名前は知らなくとも、巻き込まれてしまったぶん、なんらかの運命のようなものを感じていた。
「他のやつらはどうでもいいだろ」
「えぇ……」
「俺たちが帰れるなら、それでいいじゃん」
拓三はそう言うが、千夏はアサヒ派である。どうせならみんな帰れる方法を考えたい。もしたーちゃんがこの場にいるのなら、たーちゃんもアサヒと同じく、全員が帰れるように考えるはずだ。
「うーん」
千夏は腕を組んで、天井を見上げた。そして、一つの案を閃く。
「紅茶をかければいいと思うの!」
電気ポットは、紅茶がかかって消えた。ならば、全員に紅茶をかければいい。
「どうやって?」
「あれ!」
人差し指の先。火災時に作動する『スプリンクラー』がくっついていた。
「あれで、大広間に紅茶をまき散らすの! これで『ティーパーティー事件』なの!」
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